シリカZIPPER型光共振器を用いた光路変換応用の提案

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シリカZIPPER型光共振器を用いた光路変換応用の提案

光輻射圧で動作する新たな全光スイッチの実現に向けて

光は運動量を持つため物質にぶつかる際に圧力を生じます.この圧力は光輻射圧と呼ばれますが,非常に弱い力であるため素子研究に利用されることはほとんど有りませんでした.しかし,近年の微小光共振器技術の発展により,光輻射圧を効率的に増大し共振器構造の制御を行うオプトメカニクスという研究分野が発展してきました.私たちはシリカzipper型光共振器を利用して,光輻射圧を動作原理とする新たな全光スイッチの理論的な検討を行いました.

シリカzipper型光共振器はFig. 1 (a)に示すように二本のナノビーム型光共振器が近接した構成を取っています.Zipper共振器はその中心部分に光を閉じ込め増強するため,二本の架橋構造の間に強い光輻射圧が発生します.この光輻射圧が十分に強められると共振器構造は変位し,2本のナノビーム共振器の間隔が変化します.私たちはこの動作を動的に制御可能な方向性結合器に利用することを考えました.方向性結合器は二本の光導波路が近接した構成を持つ光の合分波に利用される素子ですが,このときの導波路間隔を適切に変化させることで光の進路変更に用いることが出来ます(Fig. 1 (b)).この導波路をzipper共振器に置き換えることで,導波路間隔を光輻射圧で変更して動作する光路変換スイッチが実現できると考えられます.このように光輻射圧で駆動する全光スイッチは世界で初めての検討であり,私たちはMOMS(Micro Opto-Mechanical system)スイッチと名付けました.

Fig. 1 (a) Schematic diagram of zipper cavity. (b) Schematic diagram of light propagation in directional coupler waveguide.

MOMSスイッチの設計と性能の数値解析にあたり,共振器の材料にシリカを選びました.シリカは他の光学材料に比べて剛性が弱いため大きな構造変位が必要な応用に向いていると考えられます.また,利用できる波長帯が広いという利点を生かして,制御光を可視光帯,信号光を通信光帯に選びました.こうすることで,信号光はブラッグミラーによるモード局在の影響を受けないで伝搬することが可能です.
共振器構造が光輻射圧によって動く際の共振周波数変化は断熱的に行われるため,光輻射圧は共振器内部エネルギーU(共振周波数ω)の変位距離s依存性(dU/ds = ħdω/ds)から算出することが出来ます.私たちは共振器間隔を変化させた際の共振周波数をFDTD法によって求めることで生じる光輻射圧の計算を行いました(Fig. 2 (a)).また,得られた光輻射圧を共振器構造に作用させた際の変位量を有限要素法により計算しました.さらに,FDTD法で変位前と変位後の構造の方向性結合器としての性能評価を行い,前述の結果と照らし合わせることで,190 mWの制御光の入力で17.8 dB以上の大きな消光比の光路変換が可能なことを示しました(Fig. 2 (b))

Fig. 2 (a) Gap dependence versus opto-mechanical coupling rate and optical radiation force. (b) Light propagation of the initial state (gap = 194 nm, extinction ratio(ER) = 17.8 dB) (upper) and light propagation after deformation(s = 93 nm, ER = 18.2 dB) (lower).

本研究の成果はAIP Advances Vol.4, Issue 7 (2014)に掲載されます.