フォトニック結晶線欠陥導波路でのランダム性を利用したEO変調器
الأبحاث
フォトニック結晶線欠陥導波路でのランダム性を利用したEO変調器
作製誤差の制御とその実用的利用
シリコンを材料としてその中に光を伝搬させ,光信号を取り扱おうとする研究分野をシリコンフォトニクスと呼びます.光ファイバーなどに用いられているガラスに比べてシリコンの屈折率が高いため,より光を小さい空間に閉じ込めることができ,素子を小型化したり,低エネルギーで駆動したりすることができます.フォトニック結晶はシリコンフォトニクスに属する素子の一つで,特殊な周期構造を有した構造によりシリコン材料本来よりもさらに強い光の閉じ込めを実現します.フォトニック結晶を利用したものとして,導波路,スイッチ,ディテクター,発振器,など様々な素子が実現されています.
フォトニック結晶で小型化が可能になった反面,作製誤差の影響を受けやすいという問題点があります.作製誤差の絶対量は作製プロセス固有のものですので,作製しようとする素子が小さければ小さいほど,誤差の影響が大きくなります.また,フォトニック結晶の作製プロセスにおける近年の流れとしては,従来のEBリソグラフィーではなく,大量生産が可能な一方作製精度の劣るフォトリソグラフィーを利用するようになってきているため,作製誤差の取り扱いには関心が集まっています.
そこで,本研究ではフォトニック結晶における作製誤差の影響を構造的に制御して,高い歩留りで利用できることを示す取り組みをしました.利用先としてEO変調器を示しており,GHzで動作することを確認しました.
私たちが選択したのは,フォトニック結晶線欠陥導波路と呼ばれる,Fig. 1(a)に示した構造です.中央の穴が空いていない部分を光が伝搬します.作製誤差の影響を制御するために,導波路幅を部分的に狭くしている[W0.98: Fig. 1(a)の青い部分]点が私たちの構造の特徴です.Figure 1(b),(c) にはこの構造のカットオフ周波数について,作製誤差のない場合とある場合を示しています.赤い破線と矢印で示した周波数の光をこの構造に入射した場合,作製誤差が一定量ある場合のみ光の閉じ込めが起こります[Fig. 1(c)].また,ここで強調したい点は,導波路幅に変化をつけているため,光の閉じ込めはW0.98の部分でのみ起こるということです.作製誤差というランダム性に由来する現象でありながら,構造によってそのランダム性が発現する部分を制御することができます.
Fig. 1. (a) Designed structure of PhC-WG, which consists of a W0.98 waveguide in between W1.05 waveguides. This two-dimensional PhC is based on a silicon slab with a hexagonal lattice clad with SiO2. The inset shows the facet structure. (b) Band structure of designed (ideal) PhC-WG. Blue and orange indicate the stop-band of the WG. The red arrow indicates the input light injected from the left side of the structure. (c) As (b) for the fabricated device containing disorder.
また,W0.98の導波路長を変更することで光の閉じ込めの確率を変化させられることも明らかにしました.2D FDTDでの計算結果より,40a(aは格子定数)のときが高い確率で光閉じ込めを発生させられ,さらに透過率も高く保てるということが分かりました.この計算結果は実験結果ともよく一致しました.
制御された環境下で作製誤差による光の閉じ込めが利用できることを,EO変調という形で示しました.用いた構造はFig. 2(a)のようにW0.98の両脇にpnドープ領域を作製し,電流を流すことができるようにしたものです.実験結果はFig. 2(b),(c)のようになり,これらは500 MHzと1 GHzで変調した結果になります.ランダム性を利用した素子というものは過去にもありましたが(アンダーソン局在を利用したレーザー発振など),実用性という観点から議論すると,本研究が初めて実用的にランダム性を利用した素子を開発したと言えます.
Fig. 2. (a) Schematic illustration of the fabricated device. The device is clad with SiO2. (b) Detected output signals when a 500 MHz radio-frequency signal is applied. The red line is at the peak resonance, and the black line is when the input laser is slightly detuned at a wavelength shorter than the resonance. (c) As (b) but with 1-GHz modulation.
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