超小型・大量生産可能なフォトニック結晶波長分波器 超小型・大量生産可能な波長分波器の実現
الأبحاث
超小型・大量生産可能なフォトニック結晶波長分波器
超小型・大量生産可能な波長分波器の実現
私たちは世界中のどことでも,だれとでも通信をして繋がることができます.この通信の世界を支えているのがWDM (wavelength division multiplexing) 通信という技術です.今回私たちは,このWDM通信で用いる波長分波器を超小型かつ大量生産可能な方式で作製することに成功しました.
WDM通信は,送信したい(受信したい)信号が別々に多くあった場合,それらの信号を一つの伝送路に統合することで通信量を増大させるという技術です〔図1(a)〕.この特徴を生かして,従来は多くの情報を一度に伝送しなくてはならない,大陸間の通信など長距離通信によく用いられてきました.そこで,私たちが普段使用しているものを見渡してみると,通信機能を有するものが多く登場してきていることが分かります.今まで大量の情報を伝送する機会は長距離通信に限られていましたが,このように日に日に増大する通信量を考えると,あるサーバ間やイントラネット間,さらには1台のパソコンのチップ間でも大容量の通信ができることが望まれます.
私たちは,シリコンフォトニクスと呼ばれるシリコンを材料とした素子で光通信を実現しようとしている研究分野に,以前から注目しています.シリコンはパソコンチップなどに用いられている電子素子と同じ材料なので,同じチップに搭載することを考えると親和性が高いと言えます.そしてシリコンは他の材料よりも光を強く閉じ込める性質があるため,光通信用の素子を作製した場合他の材料よりも小さい素子を作ることができるという利点があります.私たちは,これまでシリコンフォトニクスの中でも,フォトニック結晶という構造を作製してきました.フォトニック結晶は図1(b)に示すようにシリコン薄膜に穴を周期的に空けた構造をしています.この周期構造の中に,穴を開けたり,開けなかったりすることで,様々な機能を持たせます.
Fig. 1 (a) WDM通信の概念図.1~5番の信号が波長合波器 (MUX) で統合され伝送された後,波長分波器 (DeMUX) によって分波される.(b) 作製した波長分波器の走査型電子顕微鏡写真. (c) 波長分波器の動作原理を示した概念図.(d) 上:熱を加えて対応する信号を調節している結果.下:波長分波器の透過スペクトル.中央:2.5 Gbpsの信号を入力したときのアイパターン.挿入図はレファレンス.
今回私たちがフォトニック結晶を用いて作製したのは,WDM通信に用いる波長分波器です.波長分波器は,WDM通信において統合された信号を元通りに分割する素子です.作製した素子の走査型電子顕微鏡写真が図1(b)で,波長分波器の動作原理を示したのが図1(c)です.統合された信号は図1(c)の左側からシリコン(Si)細線導波路を通じて入力され,信号ごとに右上方向へ分波されていきます.この際,図1(c)の左上部に拡大図で示している幅変化型共振器と呼ばれる構造を通過して分波されます.幅変化型共振器を用いることで,ある信号だけを通過させることができるのです.共振器の構造が多数ある中で幅変化型を選択したのは,私たちの作製方法であるフォトリソグラフィと相性が良いとこれまでの研究によって明らかになっていたからです.図1(d)下部に示しているのが作製した波長分波器の透過スペクトルです.8つの信号を分波できていることが見て取れます.また,図1(d)上部に示しているのが,波長分波器に熱を加えることで,様々な信号に対応するよう調節できることを示した結果です.例えば,緑の信号に0~30 mWの熱を加えると,1568~1570 nmの信号に対応できるよう調節することができます.図1(d)の中央に示しているのが赤い信号に2.5 Gbpsの信号を入力したときのアイパターンです.その左上に示しているレファレンスのアイパターンと比較して分かるように,2.5 Gbpsの信号を全く問題なく伝送できていることが分かります.
フォトニック結晶を用いた私たちの波長分波器は,従来ガラスを材料として作製していた波長分波器と比較すると素子面積を20万分の1に小さくすることができるという利点があります.それだけでなく,前段でも少し触れたフォトリソグラフィという今回私たちが用いた作製方法は,これまでフォトニック結晶の構造を作製するときに用いられていた電子線描画と比べると大量生産できるという利点があります.
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