Journal Club

年度別(4月-12月)

2024年度

発表内容:


量子揺らぎは散逸性カー・ソリトンのパルス列にジッターを与え,いくつかのアプリケーションに影響を与える.本論文ではAlGaAsベースの微小共振器を用いてダークパルスを発生させ,その量子デコヒーレンスを計測した.また量子限界コヒーレンスをブライトソリトンと比較した際,ダークパルスの方が優れていることを明確に示した(具体的な数値としてはジッターのスペクトル密度がダークパルスの方が同条件で発生させたブライトソリトンよりも13dB低い.).本研究は散逸性カー・ソリトンの重要な性能評価を確立するものである..

発表内容:

通信帯域で動作するエルビウムイオンドープリチウムニオブ酸(LN)マイクロキャビティレーザーは、最近大きな注目を集めています。しかし、その変換効率とレーザー閾値には、まだ大幅に改善の余地があります。ここでは、紫外線リソグラフィー、アルゴンイオンエッチング、化学機械研磨プロセスを使用して、エルビウム-イッテルビウム共ドープLN薄膜をベースにしたマイクロディスクキャビティを作製しました。エルビウム-イッテルビウム共ドーピングによる利得係数の改善の恩恵を受けて、980 nm帯の光ポンプ下で作製したマイクロディスクで、超低閾値(約1 μW)と高変換効率(1.8 × 10^-3%)のレーザー放射が観測されました。この研究は、LN薄膜レーザーの性能を改善するための効果的な参考資料となります。

発表内容:

この論文ではWGM微小光共振器において,一方向のポンプを用いて双方向ラマンソリトンコムを,初めて実験的に実証した.ラマン利得の双方向性を考慮した理論モデルを構築し,正常分散領域で駆動するポンプを用い,異常分散領域において発生する,前方・後方伝播ラマンsech²形ソリトンの解析解を見出した.ラマンソリトンは損失とCW波(両方向で等しい)からのラマン増幅,さらに分散とカー効果のバランスによって成り立つのでその安定性についても述べられている.

発表内容:

本論文は、正常分散を持つ集積Si3N4マイクロ共振器において、レーザー自己注入同期を用いたプラチコンマイクロコム生成を実証しています。これは、従来の分散エンジニアリングを必要とする異常分散ベースのDKSマイクロコム生成とは対照的なアプローチです.論文では、市販のDFBレーザーをSi3N4チップに結合し、レーザー電流を調整するだけで、多様なプラチコン状態を直接生成できることを示しています。自己注入同期により、レーザーは通常は不安定な離調点でロックされ、安定したプラチコン生成が可能になります。プラチコンマイクロコムは、DKSマイクロコムと比較して光スペクトル幅は狭いものの、高いエネルギー変換効率を示し、可視波長域でも利用できる可能性があります。本研究は、自己注入同期を用いることで、プラチコンマイクロコム生成を簡素化し、CMOS互換プラットフォーム上での集積化を促進する道を開くものです.

発表内容:

安定したTHz周波数の高強度な超短パルス列(フェムト秒からピコ秒)の生成は、光と物質の相互作用を研究することや測定,超高速通信のために必要である。固体電気励起レーザでは、短パルスを発生させる主な方法は受動モード同期である。しかし、受動モード同期はテラヘルツ領域ではまだ実現されておらず、過去20年間にわたる長年の目標のひとつとなっている。

発表内容:

本研究では,狭い線幅と光アイソレーションを兼ね備えた完全オンチップのレーザシステムを実証した.低Qのオンチップレーザーに対して高QのSiN微小リング共振器を用いて自己注入同期(SIL)とアイソレーションを単一のCMOS互換チップ上で組み合わせることにより,高電力でも強力なフィードバックを提供できるデバイスを製造した.このシステムは集積DFBレーザを14dBパッシブにアイソレーションすると同時に,周波数ノイズを25~35dB低減することができ,ターンキーの信頼性で動作する.

発表内容:

宇宙探査における分光測定には正確な周波数の較正が必要であり,光周波数コムはその特徴から周波数のリファレンスとしての利用が期待されている.しかし,一般に短波長側に近づくにつれて材料分散の正常分散性が強まるために,紫外光の帯域においてコムによる周波数較正は困難であった.本研究では,ニオブ酸リチウム(LN)の周期構造の設計によって第四高調波発生を効率よく起こすことで193THz中心のEOコムから800THz前後に広がるUVコムの発生を実証した.さらに,SiN微小共振器を用いたマイクロコムでも同様の高調波発生を実証した.本研究の成果に加え,更なるノイズの低減やスペクトルの整合性の向上を実現することで,通信波長帯のポンプ光から可視光-紫外光間のギャップが無い連続的なスペクトルを得ることができ,紫外線精密分光を実現するための新たな手法の可能性が示される

発表内容:

この論文では、Kerr マイクロコムを利用したリアルタイムのビデオ画像処理装置を提案しました。提案した画像処理装置は 17 テラビット/秒の処理能力を備えており、約 400,000 のビデオ信号を同時に処理できます。また画像のエッジ検出、エッジ強調、モーションブラーなど 34種類の画像処理機能を同時に実行することが可能です。ビデオ画像処理装置は、RF フォトニックフィルタを基盤として構築されています。本研究では、ソリトン結晶マイクロコムを用いています。このコムは、95 個の波長を生成することで、超並列処理の基盤として機能し、各チャネルは64 ギガボー (ピクセル/秒) の速度で動作します。今後はロボットビジョンや機械学習への応用が期待されています。

発表内容:

本論文では,誘導ブリルアン散乱(SBS)を利用したマイクロ波フォトニックフィルタを提案した.単一レーザから分けられたポンプ光とプローブ光のサイドバンドを干渉させることでフィルタを実現し,最大100dBの消光比と最大50ns遅延応答を達成した.また,QAM信号を送信し,干渉信号を抑制する効果を確認した.このフィルタは,13dBmの低電力で動作し,複雑なシステム構成が不要であるため,今後のフォトニックフィルタの設計に大きく影響することが期待されている.

発表内容:

空間系におけるインコヒレントな光ニューラルネットワークアクセラレータを構成した.LED光源と空間光変調器を用いて光による行列積計算を実装し,電気回路と同時に実装することで,活性化関数の実装を含めたニューラルネットの多重化を容易にした. 500kHzの動作速度で原理実証を行い,MNIST分類問題で約92%と高い正答率を示した.また低消費電力性に優れ,商用のGPUに匹敵することができると示した.今後の高速化,大規模化,集積化が見込める.

発表内容:

本研究では単色のポンプデュアルモードマイクロ共振器を用いた50 GHzデュアルマイクロコム生成の新たなアプローチを実証した.この方法は小型化と統合の実現において大きな可能性を持ち,他の材料プラットフォームにも応用可能である.本研究では数値シミュレーションと実験測定の両方が行われた.TE10モードからの熱効果を活用することで,TE00モードのソリトン存在範囲を1.7 MHzから740 MHzに増加させた.これにより圧電周波数スイープや遅い温度制御を用いたソリトン励起手順が簡素化される.さらに,相互にコヒーレントなソリトン,プライマリーマイクロコムおよび非コヒーレントなソリトン,カオスマイクロコムのデュアルマイクロコムは,スペクトル分析とRFビートノート測定の両方で検証された..さらに,本研究で提示された方法は,カー・マイクロコム生成におけるマイクロ共振器モードの相互作用メカニズムを研究するための動機付けとして機能する可能性もある..

発表内容:

楕円形のマイクロディスクのような変形した微小共振器を用いることは微小共振器レーザにおける自由空間放出の解決策になることはよく知られている.しかしながら共振器を変形させることはQ値を低下させ,結果的に出力を弱くすることに繋がる.この問題を解決するアプローチとして,変形した微小共振器の構造による出力強度への負の影響を補償する高効率のゲイン媒質を使用することがある.本研究では,レーザー利得媒体として優れたレーザー結晶材料Nd:YAGを採用し、軌道長半径15μm、偏心率0.15の楕円マイクロディスクレーザーの作製に成功した。励起光に808nmレーザーを用いることで、スロープ効率1.7%、最大出力58μWという驚異的な自由空間レーザー発振を実現した。本研究は、変形マイクロ共振器レーザーの応用の発展に貢献するものである。

発表内容:

本研究では,Si上に直接成長させた量子ドットレーザーを用いて,ターンキーで外部共振器同期(ECL)が可能なセルフインジェクションロック(SIL)レーザーのコヒーレンスを実現した.この高性能量子ドット・レーザーは,スケーラブルで低コストのヘテ

ロエピタキシャル集積プラットフォームを提供する.さらに,量子ドットレーザーのカオスフリーな性質は,低Q値の外部共振器を用いたECL下で16Hzのローレンツ線幅を可能にし,従来の量子井戸(QW)レーザーに比べて周波数ノイズをさらに1桁改善する.

発表内容:

元来,微小共振器を用いたソリトンの発生には非線形効果に釣り合う分散が必要とされてきた.本研究ではこれに代わる新たな手法として,スペクトルフィルタリングによるソリトンの発生について,実験,計算の両面から検討した.結果として,この手法によるソリトンは分散を用いて発生させたソリトンよりスペクトル間隔が密であり,さらにエネルギーがパルス持続時間に制限されないという特徴を持つことが明らかになった.この発見は前例のない特徴を持つ散逸性ソリトンや周波数コムを生成するための新たな手法につながることが期待される.

発表内容:

無線技術の進展に伴い,レーダー高度計と5Gネットワーク間の干渉など,深刻な電波干渉が懸念されている.モバイルトランシーバーは時間とともに異なる比率で信号を混合するため,従来のデジタル信号処理では高い遅延がボトルネックとなっている.本論文では,この課題を解決するために,システム・オン・チップのフォトニックプロセッサを提案する.このプロセッサはアナログ領域での信号を15ピコ秒以下の低遅延で処理し,電子回路の処理速度を大幅に上回る.さらに,プロセッサを補完するコンパクトなFPGAベースの電子ペリフェラルが,リアルタイムで分離重みを更新し,プロセッサが携帯型デバイスとしての実用性を有する.実験的には,レーダー高度計と移動体通信という2つのシナリオにおいて,伝送エラーの抑制と信号対雑音の維持を実証した.

発表内容:

 

本論文では、フォトニック集積回路(PIC)を活用したディープラーニング の行列演算の効率化に向けて、シリコンマイクロリング共振器(MRR)を用いた対称 型光学クロスバーアレイを提案し、実証しました。従来の光学アクセラレータでは、 非対称構造によって挿入損失に不均衡が生じるという課題がありましたが、本研究で はこれを克服するために対称構造の光学アクセラレータを製作し、性能の改善を図り ました。 また提案した4×4 MRRクロスバーアレイは、アヤメの花分類タスクにおいて93.3%の 精度を達成、誤差逆伝搬法を用いたニューラルネットワークの学習後も91.1%の精度を維持しました。さらに、手書き数字認識タスクでは、9×9 MRRクロスバーアレイを用いた畳み込み演算が高い性能を示し、優れた結果を得ることができました。 

発表内容:

 

ウィスパリングギャラリーモード(WGM)マイクロトロイド共振器は、現存する中で最も感度の高い生化学センサーの1つであり、単一分子を検出することができます。これらのデバイスを実験室から取り出す際の主な障壁は、光がテーパー状の光ファイバを介してこれらのデバイスにエバネッセント結合されることです。これは、テーパーが壊れやすく、機械的振動に悩まされ、正確な位置決めを必要とします。本研究では、自由空間結合を介してトロイドに光を入射し、散乱光を観測することで、光ファイバを不要にしています。デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)と組み合わせ、距離対物レンズを組み合わせることで、光の注入、散乱光の観測、およびイメージングに使用しました。このアプローチにより、自由空間での間接結合で電磁誘起透過性(EIT)およびファノ共鳴を観測することが出来ました。これにより、センシング感度の向上が可能となります。また大きな有効結合面積(開口数=0.14で直径~10μm)により、正確な位置決めが不要です。本システムとFLOWER(Frequency Locked Whispering Evanescent Resonator)方式を組み合わせ、温度センシング実験を行うことでセンシング性能を検証しました。入力電力を調整しながらFLOWERの共振を追跡することにより、熱非線形光学効果を調べました。この研究は、WGMマイクロトロイド共振器の実装を実世界のアプリケーションに拡大するための基盤になると考えています。

発表内容:

この研究ではボソンピークを考慮に入れてシリカ微小光共振器における散逸性カーソリトンのラマン誘起自己周波数シフトを理論的に研究した.その結果,ボソンピークはソリトンの自己周波数シフトを大幅に増加させ,特定のパルス持続時間においてはローレンツ応答によるシフトよりも大きな寄与をすることが分かった.またこれにより再構成されたラマンショック時間は比較的長いパルスでもパルス幅に関連していることを示した.さらに,ソリトンに干渉する背景の連続波がソリトンの自己周波数シフトを減少させることも示した.この理論的およびシミュレーションによる結果は,シリカベースのカーソリトンマイクロコムにおけるこれまでの実験値と非常に一致していることを示している.

発表内容:

本論文では、Yb3+/Er3+共添加シリカ微小球を増幅自然放(ASE)光源で励起・チューニングさせたレーザーの研究を行った。ASE光を用いることで、広帯域のチューニングの過程における微小共振器のカプッリング条件の同期調整を回避し、微小共振器を用いたチューナブルレーザーの実際の応用が容易になった。Yb3+/Er3+共添加シリカ微小球では、中心波長mASE光源が偏光に対して鈍感であるため、約1595nm安定したシングルモードレーザーが発生した。レーザーのモードの全光変調のために、マグネトロン・スパッタリングによって銅薄膜をコーティングした。微小球の加熱制御とレーザーモードの線形チューニングは、微小球のステムから入射する銅膜によるASE光の吸収によって実現した。チューニングの範囲は190GHzに達した。

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スーパーコンティニューム(SC光源は広帯域かつコヒーレントな白色パルス光源であり,たった1つの光源で広い波長範囲をカバーし分光分析やOCTなどに利用することが可能である.これまでSC光源生成には一般に石英ファイバが用いられており,2400nmを超える波長をカバーできなかったが,近年になってナノ構造によりグレーデッドインデック(GRINファイバを実現する手法が提案され,非線形性が大きく透過帯域の広い材料でファイバを作成可能になった.本研究ではテルライトGRINマルチモードファイバを作成し790~2900nmSCを発生させることに成功した.この結果はSC光源の低エネルギー化,赤外への波長延伸の道を開くものである.

発表内容:

 

ニオブ酸リチウム(LN)は,ナノスケールの導波路へ強力にモードを閉じ込められ,同時に二次の非線形性が大きい,分散制御が容易,周期構造を利用した位相整合が可能であるなどの特徴を有した優れたプラットフォームであるが,一方でウォークオフの小さい状態での周波数コムの実証については未開拓である.本論文では,LN薄膜の分散制御を利用した広帯域な光周波数コムの発生を,中心波長1560nmおよび780nmにおいて実証する.この実証において,各波長帯でそれぞれ80nm,12nmの帯域幅が達成された.この結果は二次ソリトン発生への道を開くものである.

発表内容:

ランダムビット生成器は,情報セキュリティ,暗号化,確率モデル,シミュレーションにおいて重要である.現在のランダムビット生成には,速度と拡張性が課題となっている.本研究では,単一のマイクロリング共振器をもとに,100Tbit/s規模の超高速ランダムビット生成のための大規模並列スキームを提案する.マイクロリング共振器内の変調不安定性(MI)によるカオスコムを利用することで,バイアスのない数百の独立したランダムビットストリームを同時に生成することが可能である.概念実証実験では,僅か7本のコム線だけで2Tbit/sを超えるランダムビットストリームを生成できることを示した.このビットレートは,使用するコム線の本数を増やすことで容易に向上することができる.本研究のアプローチは,安全な通信や高性能計算に向けた,非常に優れた速度と拡張性を有するチップスケールでのランダムビット生成を実現した.

発表内容:

自己ロックされたラマン単一ソリトンを生成し,OPOと誘導ラマン散乱の間の相対的な閾値パワーを調整することにより、周波数コムの異なるスペクトルダイナミクスを特徴づけた.ラマン散乱光子を介して広いRF線幅(320kHz)を持つsech2包絡ラマンコムを生成することが可能であり、特定の条件下では,同時に自発的かつ決定論的なラマン単一ソリトンの生成が達成された.この自己ロックされた単一ソリトンは、外部ロック機構なしで生成され,2時間以上にわたって維持された.また、マイクロキャビティ内でSBS生成に適したFSRを必要とするブリルアンソリトンとは対照的に,ラマンソリトンにはそのような制約がなく,さまざまな繰り返し率のソリトンを生成する可能性がある.この研究は,自己ロックされたラマン単一ソリトンを生成した最初の実験である

発表内容:

集積チップスケールのOFD(光周波数の分周)を実証し,非常に低ノイズな
ミリ波発生を実現した.大きなモード体積を持つ平面導波路ベースのコイル共振器を
用いることで位相安定性を確保し,導波路結合マイクロ共振器で発生するソリトンマ
イクロコムを用いて光からミリ波周波数まで分周を行った.生成された100GHz信号の
位相雑音として,従来報告されているSiNベースのマイクロ波と比較して2桁以上低
い,オフセット周波数10kHzで-114dBc/Hzの雑音レベルを達成した.
ミリ波発生の集積化は通信,レーダー,センシングシステムのブレイクスルーになり
得る技術であり,今回のデバイスは将来的に半導体レーザー,増幅器,フォトディテ
クタと異種集積することが可能であり広い応用が期待できる.

発表内容:

シリコンナイトライド(SiN)によるKerrソリトン発生と,シリコン(Si)による変調器,分散補償器,受信器を集積し,シングルモードファイバー上でWDM通信を実証した.長さ20 kmのSMF上で1.68Tbit/sの通信速度を達成したほか,40 kmのSMFでの分散補償を市販トランシーバの1/6にまで低減することに成功した.将来的に10Tbit/sを超えるデータレートを達成する可能性を秘めており,データセンタ等での相互接続を高効率化できると期待される.