Journal Club

年度別(4月-12月)

2013年度

発表内容:

原子と光子の結合による量子研究は,多くは光共振器を用いたCavity QEDによっ て研究されてきた.本研究では,ナノサイズ導波路周りに原子格子を適切に配置 することで,原子格子をブラッグミラーとみなした共振器を導波路 上に作製で き,Cavity QEDや量子情報処理に応用できることを示した.この技術をさらに応 用していくことで,量子情報ネットワークの構築の基礎となることが期待され る.発表では特に原理について詳しく説明する予定である.

発表内容:

超高感度センシング技術があれば,従来観測できなかった多くの現象を観測し研究することができる.感度には機械振動Q値が大きく関係しており,本研究では光トラップしたシリカ微粒子を用いることで非常に高いQ値を実現した.そのデバイスを用いて,従来は観測できなかった熱振動の非線形性を観測したので報告する.またCooling技術を用いることで,更なる高感度化が実現できると考えられる.

発表内容:

従来より用いられてきた回折格子による分光には,空間的に波長を分解する必要があることから,サイズが大きくなってしまうという問題があった.しかしながら,近年研究の盛んなDisordered-systemを回折格子の代わりに用いることができれば,ランダムな散乱により光路長を稼げることから,より小さい分光器を実現することができる.本論文ではDisordered-フォトニック結晶を用いることにより,要する面積の小さな分光計をチップ上に実現したので,報告する.

発表内容:

フォトニック結晶は,小型でありながら高い光閉じ込めを実現する ことから光回路への応用が期待されている. 近年の情報・通信量の増加に伴い集積化,つまり自在に3次元光配線を行うこと が求められているが,作製が困難であるため, また設計指針が明らかになっていないため,実現には至っていなかった.本論文 では斜め導波路を用いることで3次元光配線を初めて実現した.

発表内容:

光技術における課題の1つである回折限界により,光素子の小型化は波長程度のスケールに制限されている.この解決法として電磁波と電子の結合を利用した表 面プラズモンポラリトンが挙げられる.近年ではこの技術を用いたプラズモンレーザに関する研究が発表されているが,これらの問題として10K程度 までの冷却の必要性がある.本研究ではCdSとAgをMgF2により分離した構造の共振器を用いることで,室温動作可能なプラズモンレーザを作製 した. 今回の発表では,生物学を専門としない者にもなるべく分かり易く解説することを目指す.

発表内容:

量子エミッタに関する研究においてはエミッタと放射モードとの結合を強めることが大切であり,Q値の高い共振器やモード体積の小さいプラズモンを利用することで光と物質の相互作用を高めることを目指してきた.本研究では,この両方の効果を利用できるプラズモン共振器を作製し,量子ドットからの自然放出光の増強現象と広帯域の量子エミッタから波長選択的に単一光子源を作製できることを実験的に示した.当日はプラズモンの基礎や他の応用研究の話を含めて説明を行う.

発表内容:

細胞周期解析は多くの細胞生理学過程において極めて重要な意味を持ち,ここ数十年間で関心が増加 している.その中で,Fucci技術のようにリアルタイムで時空間的に細胞周期を解析する技術が注目を集めてい るが,未だラベルフリーの細胞周期解析というものは達成されていない. 本論文は蛍光タンパクを使わずにラベルフリーで細胞周期を解析した初めての研究であり,その学術的なインパ クトは大きい. 今回の発表では,生物学を専門としない者にもなるべく分かり易く解説することを目指す.

発表内容:

2005年にIntelが発表したSi導波路を用いたラマンレーザを はじめとして,さまざまなラマンレーザの研究はなされていたが しきい値や素子のサイズが問題となっており,現実的な素子の 開発は絶望視されていたが,フォトニック結晶を用いることで, 素子の大きさを小さくするとともに,しきい値の低下も実現できた.

発表内容:

量子鍵配送は既に実用化が進んでいる技術である.しかしながら,既存のBB84プロトコルの盗聴に対する脆弱性やAPDをベースとする単一光子検出器の性能の低さから,伝送距離や秘密鍵生成レートには制限があった.そこで本論文では差動位相シフト量子鍵配送プロトコルを及び超伝導体単一光子検出器を用いることにより,従来の2倍以上の伝送距離を実現したので報告する. 当日は,差動位相シフトプロトコルと超伝導体単一光子検出器を中心に,長距離化が可能となった理由について重点的に説明する予定です.

発表内容:

光共振器において,共振器の安定性や感度は両端の鏡の精度に依存する.光原子時計や重力波観測に用いる上で,熱雑音の影響が大きくなってきており,従来のミラーに比べてより高安定性を持つミラーコーティングが必要とされている.そこで本グループは,低い機械的損失と高い光学的品質をもつ新しい単結晶多層膜を作製した.ファブリーペロー共振器を形成したとき,フィネスが150,000を観測した.さらに室温で従来のミラーに比べて熱雑音を1/10に抑えることを観測した.これにより,より高感度な共振器や,より安定したレーザの開発が可能になると考えられる. 当日は,作製したミラーの検証実験結果を中心に解説する.

発表内容:

ナノメートルスケールでの温度変化を高感度に検知することは,現代科学において大きな課題となっている.広い温度範囲にわたって1℃未満の温 度分解能を持ち,さらに生体内に組み込める温度計があれば,特に生物の分野  (温度による遺伝子発現制御,腫瘍代謝の制御など)で大きな貢献が見込まれる. 本研究では,ダイヤモンドの窒素空孔色中心(Nitorogen Vacancy colour centre)が持つ,電子スピンのコヒーレント操作を利用した新しいナノメートル スケールでの温度測定法を提案する.NV中心を用いた温度測定の実証か ら,細 胞内(in vivo)での実験結果までを含む. 当日は,実験手法,実験結果を中心に解説する.

発表内容:

Muneaki Hase, Masayuki Katsuragawa, Anca Monia Constantinescu & Hrvoje Petek 発表内容:固体物質における光学非線形性は,高帯域の情報処理において光学的機能と電子的機能を併用できるため非常に興味深い.シリコンにおける3次非線形光学過程はギガヘルツ帯域の光信号処理に用いられてきたが,テラヘルツ帯域での光変調に関しての研究は行われていなかった.本研究では,シリコンに高強度フェムト秒パルスを照射することで大振幅のコヒーレント縦光学フォノンを励起し,シリコンの光屈折率を超高速変調することで縦光学フォノンの基本周波数(15.6THz)の間隔で100THzを超える帯域の周波数コムの発生に成功した.

発表内容:

多光子吸収の技術はバイオイメージングや三次元光記録などへの応用が期待されている.本研究では,5光子吸収による新しい蛍光体からの誘導放出を初めて実験的に観測したことを報告する.低次の非線形吸収と比較すると,5光子吸収過程は強い空間的閉じ込めをもたらし,非常に高いイメージングコントラストを実現できる.加えて,近赤外レーザー励起の下で2~4光子吸収による誘導放出も実現されており,生体サンプルからの自己蛍光がない,侵入深さが深い,感度と解像度が高いなどの特徴を持つ有望な多光子イメージングプローブとなるであろう.

発表内容:

光の回折限界を超えた集光に関する研究はさかんに行われており,これは近接場光を用いることで解決できることがわかっている.近年の近 接場光 の集光制御では, 小さな開口によるものや,プラズモニック結晶によるもの,メタマテリアルによ るものなど様々な技術があるが,どれも微細で精密な構造作製を要し, 集光の程度は構造に依存するという欠点がある. これに対し本論文では,微細な構造を必要とせず任意に集光の程度を制御できる 手法を発見したので報告する.

発表内容:

光子の持つスピンによる光スピンホール効果は以前から 観測されていたが,スピンの向きに対する変位量が小さ いために観測は容易ではなかった.本論文は誘電体表面 に金のアンテナを配列させたメタマテリアルを用いるこ とで変位量を大きくとることに成功し,観測を容易にした.

発表内容:

メタマテリアルにより実現される負の屈折率構造(Negative-index metamaterial: NIM)は,完全レンズ(Perfect Lens)等への応用が期待されている.完全レンズを実現するためには3次元のNIMが必要だが,従来までのNIMは損失が大きく,十分な光学特性を得られなかった.そこで本論文ではfishnet型構造を用いることにより,損失を抑えた3次元のNIMを実験的に実現したので報告する. 当日はNIM研究の歴史やその原理から,重点的に説明する予定です.

発表内容:

ナノフォトニクスによる電気信号から光信号への変換が実現すれ ば,エレクトロニクスとフォトニクスの集積化が可能になる.本研究ではL3共振 器とグラフェ ンを組み合わせて用いることで,共振器の共鳴波長を最大で2 nm,共振器反射率を最大で400 %変化させることに成功した.また,理論検討に より,このデバイスは数十 fJかつ250 GHzで動作する可能性があることが分かっ た.このグラフェン共振器デバイスにより,小型でありながらより低パワーで高 速な電気・光変換を行えるだろうと 期待されている.

発表内容:

光コムを発生させる手法の一つとして,モードロックレーザがあるが,量子カスケードレーザにおいて,モードロック操作をおこなうことは難しい.何故なら ば,ゲイン回復時間が,想定される共振器一周の光パルス伝搬時間よりもずっと短いため,別の発振が生じてしまうからである.本研究では,群速度分 散が平坦になるように構造を設計した量子カスケードレーザを用いることで,モードロックではなく,FWMを利用する手法で光コムを発生させた.こ れは中赤外領域での,広帯域・コンパクト・電流注入操作で駆動する光コム光源として期待されている.

発表内容:

回折限界(250 nm)でのプリンティングの研究は主に,インクジェット・レーザジェットの手法と今回用いる表面プラズモンの2種類のアプローチがある.インクジェット方式では解像度は優れているが,モノクロでしか表現することができない.一方で,表面プラズモンを用いたナノホールフィルターは周期的構造が必要であるため,解像度がマイクロスケールになってしまう. 今回の報告では,ナノ構造の下に反射膜を入れることによって,周期的な依存性のない構造でカラーリングすることに成功し,表面プラズモンを用いて回折限界解像度を得ることができた.また,カラーリングはナノ構造の形状を変えることによって表面プラズモンとファノ共鳴の相互作用制御することで達成した. 発表ではCLEO-PR & OECC/PSでのPlasmonicsの研究報告も交えながら,幅広く解説していく.

発表内容:

階段状の屈折率分布を持つ多層膜は広帯域において反射防止特性を示すことが数学的に証明されている. しかし,空気の屈折率に非常に近い低屈折率材料が存在 しないため,これまで広帯域反射防止膜は実現されなかった. 本研究では斜め蒸着によってTiO2とSiO2の薄膜を作製し,その屈折率を調整する ことによ り広帯域でフレネル反射を除去した. このときSiO2膜では最小でn=1.05の屈折率が達成された.

発表内容:

Mitsuru Saito, Kouji Taniguchi, and Taka-hisa Arima 発表内容:近年マルチフェロイックな物質が発見されたにもかかわらず,それらの物質が示す方向2色性は0.1%が最大であった.本研究ではマルチ フェロイックな物質であるための条件である,時間的対象性と空間的対称性の破れの度合いが比較的小さい物質を用いることで,方向2色性が100% という非常に大きな値を得ることに成功した.これは電気双極子遷移と磁気双極子遷移の結合が大きくなったことに起因する.発表では基本的な内容で ある電気磁気効果から丁寧に解説を行う.

発表内容:

吸収によるイメージングは, 赤血球の発見に始まり, 現代における恒星の中の塵雲やボース・アインシュタイン凝縮の観察に至るまで実に多様な応用がなされている. 本論文では, 真空中で孤立した単一原子をRF Paul トラップにより閉じ込め, 位相フレネルレンズを用いて波長程度の分解能でイメージングした. 吸収によるイメージングとしては世界で初めてのことである. 原子の光学的性質は良く理解されているため, 原子は吸収イメージングの限界を知るのに理想的な試料である. この結果は可視域やX線領域において光に敏感なサンプルのイメージングにおける新たな手法を提供することになるだろう.

発表内容:

量子情報処理を行うためには,それぞれの量子的な系を結ぶ量子ネットワークを形成することが重要になる.しかし,ネットワークにおける量子的なノードを形成することが主要な課題となっていた.本研究では,光共振器中にルビジウム原子を補足した系によりノードを形成し,2つの離れた量子系間の原子の量子状態の通信およびエンタングルメントの形成に成功した.本Journal Clubでは2つの隔離された量子的な系におけるエンタングルメントの実証という点に重点をおいて発表を行う.

発表内容:

誘電体表面に金のアンテナを配列させることにより,表面上で位相を変化させることで入射された平面波を任意の方向に透過・反射させることができる. 単純なダイポールでは360°の位相変化の幅をつくることができないため”V-アンテナ”を提案し,辺の長さや辺の間の角度を最適化することにより, 散乱強度を維持しながら幅広い位相変化を実現させた.さらに,中心に対して点対称に位相変化を施すことで,ラゲールガウスビームの発生も確認できた.

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