研究テーマ
AI技術を活用した超小型分光器の開発
- 内容
フォトニック結晶とは光波長に対する人工的な結晶です.半導体結晶が電子に対してバンドギャップを持つのと同じように,微細加工技術を駆使して屈折率の周期的な構造を作り出すと,フォトニック結晶と呼ばれる光に対してバンドギャップを持つ人工的な材料を作り出します.光に対するバンドギャップを利用すると,光をチップ内に強く閉じ込めたり,光の速度を遅くすることができます.またサイズも極めて小さいので光集積回路実現の一つの有力な候補となっています.
しかしフォトニック結晶をはじめとするナノフォトニクス素子では,きわめて精密な構造が必要となるので,その性能は作製誤差によって制限を受けてきました.作製誤差があるために構造に揺らぎが生じて,光がランダムに局在してしまう「光のアンダーソン局在」と呼ばれる現象が発現してしまいます.物理現象としては面白いのですが,工学的な応用に用いるためには,そうしたランダムな性質が観測されることは好ましくありません.
しかし我々はこのランダム性を,逆に,積極的に活用することで,素子の性能を向上させるのに使えるのではないかと考えています.せようとしています.そのためには,データ処理にAI技術を取り入れます.局在パタンをソフトウェアで学習させることで未知の応答を高度に予想できれば,性能向上が図れます.この一つ応用例として,高性能な分光器の開発を目指しています.従来の分光器は高価で大きいので限られた用途にしか用いられていませんが,小型で安価に作製できれば,スマートフォンに組み込んで瞳認証に用いたり,生産ラインのセンサとして組み込んだりと様々な応用が拓けることを期待しています.
- 研究のポイント
本研究はまだ始まったばかりであり,原理実証実験はできたものの,本当に使える素子が実現できるのか?複数の波長に対しても所望の動作をするのか?など,まだわからなことだらけです.また,本素子の原理実証実験ができたとしても,その次には実装と本当に役に立つキラーアプリケーションを見つけ出さなくてはなりません.そうした萌芽期にある研究であり,まだまだ暗中模索ですが,大きな可能性を持った研究です.
特に研究を難しくしているところは,データ処理に使うニューラルネットワークがブラックボックス化されており,コンピュータがどのように考えてその結果を導き出しているか簡単には理解できない点にあります.ニューラルネットワーク自体についてもより深い知識が必要であり,ソフトウェアとハードウェアの両方について精通している必要があります.
実は構造のランダム性によって光が局在するような現象は,ランダムフォトニクスと呼ばれ,物理学分野では統計学やカオス理論との接点において高い興味をもって研究されている分野です.しかしランダムフォトニクスを工学的に応用した例はこれまでになく,本研究はその先例になる可能性を秘めています.単純な分光器開発というだけでなく,学術的にも価値のある研究です.
- 研究プロジェクト
本研究はまだ萌芽段階にあり,本格的な共同研究はありません.ただし基本特許は取得済みであり,今後のプロジェクト展開が大いに期待されます.また,機械学習などに関しては電子工学科池原教授のアドバイスも受けながら研究を進めています.
《 Keyword 》
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2024年度配属生向けの研究室説明会を実施しています.オープンラボは自由に研究室に出入りしてください.また,いつでも個別説明会を受け付けます.
<開催中>
- 10/23(月) 16:30~ 説明会1回目 (場所: 14棟2階 DS43)
- 10/27(月) 18:00~ 説明会2回目 (場所: 14棟2階 DR8)
- 11/ 2(木) 16:30~ 説明会3回目 (場所: 14棟2階 DR7)
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