CLEO-PR 2013 加藤 拓巳

Research

CLEO-PR 2013 学会参加報告

田邉研究室 加藤 拓巳

2013年7月1日~7月3日

10月6日から10日にかけてOrlando, Floridaにて行われたFiO2013 (Frontier in Optics)において
ポスター発表を行い,かつ多くの研究発表を聴講したので,その報告を行う.

【 概要 】

この度,京都にて開催されたCLEO-Pacific Rim に参加することができた.光工学系の最大の学会であるCLEOの分家的な位置づけであり,CLEO-Europeと並ぶ学会である.このようなレベルの高い国際学会が日本で開かれるのは,日本の研究者にとっては世界の研究を学ぶ絶好の機会である.日本で開催されているメリットの一つとして,宿泊先やご飯を食べる場所などのライフラインに全く困らないことである.外国に行くと,どうしてもそういった事が気になり,学会に集中しきれない感があるが,今回のCLEO-PRは,そういった心配無しに,学会に全日参加でき,非常にアカデミックな体験となった.
今回は”Analysis of Various Whispering Gallery Mode in an Octagonal Silica Troidal Microcavity”という題目でのポスター発表だった.口頭発表とは違い,会話間隔で和やかに研究発表ができた.日本の学会ということもあって,日本人が多かったが,ポスターを聞きに来る人は外国人の方が多かった.日本ではフォトニック結晶は主流であるが,WGM微小光共振器はあまり人気がないので,当たり前ではある.
今回感じたのは,国によって得意な研究があるということである.日本は光コムの絶対計測の分野ではかなり進んでいるように感じたし,フォトニック結晶の分野も言わずもがなである.ゆえにそれらのセッションは,質の高い講演が多く,聴衆も多かった.
ポスターセッションにおいて,自分のポスター発表を聞きに来てくれた人が,翌日ポスター発表をしているような場面に初めて出会った.そして「Hey you」のような交流があり,「海外の人と交流する機会」を実感した.

【研究動向調査】

・TuC1-5: Chirped-pulse up conversion of mid-infrared pulses with four-wave difference frequency generation in gases分子研
difference frequency generation in gases分子研
中赤外領域は,多くの分子の分子振動帯域であり,分光の分野で用いられている.しかしながら中赤外領域は,ディテクタの性能が低い.高感度なMCT検出器(水銀,カドミウム,テルル半導体素子)は液体窒素温度でのみ動作する.常温動作が可能なDTGS検出器は,応答速度が遅くS/N比が低いため弱い赤外線の検出は難しい.そこで本研究は,物質を透過させた赤外線を,pump光と掛け合わせて,波長変換し,可視光帯の検知器で高感度に測定している.この考え自体には前例があるが,従来は非線形結晶を用いて波長変換をしていた.位相整合の影響により,変換できるバンド幅に限りがあったものの,本研究では非線形媒質としてXeガスを用いている.これによってオクターブレベルでの変換が可能になった.検知した変換光をコンピュータで処理をすることで,高感度に赤外分光をおこなうことができるようになった.

・TuF3-5: High Resolution Molecular Spectroscopy Assisted by an Optical Frequency Comb福岡大 Misono lab
光コムを用いた研究は多々なされているが,何が出来て,何が出来ていないのかの全体像がはっきりしていない.本研究は,光コムを利用して高分解能な分子分光をおこなったという研究であるが,このような研究が学会の場に出てくるという事は,まだまだ発展の余地があるということであろう.実験のイメージは,1つの波長可変レーザを掃引していき,それをI2の分子に入射して,その吸収スペクトルを見るというシンプルなものである.しかし掃引と同時に,GPSにロックした光コムと干渉させて,波長可変レーザと光コムのビートを見る.のビートと,のビートを観測し続けることで,波長可変レーザの絶対周波数を割り出すことができる.割り出す際に,異なるバンドパスフィルタに通して,そのデータを処理すると高分解が実現できるらしい.注目すべきは,このバンドパスフィルタを用いる手法は,Del’Haye et al., “Frequency comb assisted diode laser spectroscopy for measurement of microcavity dispersion,” Nat. Photon. 3, 529 (2009)にアイディアがあるとのことである.

・Tul4-1: Next Generation Silicon Photonics Cornell Univ. Lipson
1: 高速変調シリコンリング
シリコンリングによる光信号変調を制限しているのは,Q値なのかFSRなのかというような話.従来は20 Gbpsが関の山であったが,リングの4分の1部分だけに熱変化を加えられるような機構を作ることで,さらなる上昇が見込めると言っていた.

2: アモルファスシリコンを用いた,エレクトロニクスとのコネクション
Lipsonの話の多くは,シリコンフォトニクスを既存のエレクトロニクスとどうマージさせるかということに主眼がおかれていた.エレクトロニクスの上に,シリコンを成長させる際,半導体素子部を壊さないように,低温成長である必要がある.それを満たすのがアモルファスシリコンである.アモルファスシリコンの上にナイトライド層を引くことで,リング共振器などとエレクトロニクスとの結合が可能になる.エレクトロノードとナイトライドを繋ぐのは,アモルファスシリコンであるが,レーザアニールすることで導波路構造を作れるらしい.アモルファスシリコンはクラックが存在するため光学特性が悪いと一般には言われているが,導波路径 200 nmという細さである限りはクラックの影響を受けない.

3: マルチモードフォトニクス
時代はマルチモードに移りつつあるらしい.1次のモードと2次のモードにそれぞれ違う情報を載せて通信するようなビジョンがある.そのためにtransformation opticsの概念を用いて導波路構造を決定する研究などをしている.

・WF2-3 Fiber Laser Driven Mid-Infrared Frequency Combs, Ingmar Hartl
現在発生できる光コムは,最長でも2μm帯である.中赤外帯には分子振動の多くが存在しているため,2.5μm~15μmといった帯域の光コムを発生させる研究が多く進められている.光コムの発生方法には,SC, DFG/SFG, OPO, Microcavity, QCLなどが考えられるが,やはり安定性,操作性を考慮するとファイバレーザを基幹とするのが,賢明である.ファイバレーザを利用して中赤外光コムを発生させるのが本研究である.ファイバレーザには1.95 μmを発生するTmを用いる.それを中赤外に適したOrientation patterned GaAs 又は ZGP結晶を使って,中赤外領域に変換する.1.5 μmを中心とした通信波長帯域では,当たり前のように使われている技術でも,他の帯域になると研究されていない場合が多い.本研究も,中赤外に適したTmファイバレーザ,OP-GaAsやZGP結晶を適切に配置したことが肝要であった.