光カー双安定メモリの解析

Research

光カー双安定メモリの解析

極的に省エネな光メモリを実現するために

田邉研究室では,光共振器を用いた全光スイッチやメモリに関する研究を行っています.これらの素子を用いて既存の電気回路を光回路に置き換えることによって,将来的には省エネルギーな信号処理が実現できると考えられます.本研究ではシリカトロイド微小光共振器を用いた全光メモリに関する理論的検討を行いました.

光共振器内の屈折率を動的に操作することによって全光メモリを実現可能できるということがよく知られています.共振器内の屈折率を省エネルギーで操作するには光吸収を伴わない光Kerr効果を用いるのが最善ですが,この効果が起こす屈折率変化は小さいので利用が難しいという問題がありました.

そこで本研究では,結合モード理論と有限要素法とを組み合わせた数値解析(図1)を用いて,シリカトロイド微小光共振器上で光Kerr双安定メモリを実現するのに必要な条件について検討を行いました(図2).数値解析の結果より,シリカトロイド微小光共振器上で光Kerr双安定メモリを得るためには共振器とテーパファイバ間の結合を適切な値に調整する必要があることが分かり,光Kerr双安定メモリを実験的に得る際の重要な知見が明らかになりました.

本研究の一部は戦略的情報通信研究開発推進制度(SCOPE) の委託研究として実施されました.また,キヤノン財団の資金的な支援を受けました.

Fig. 1 (a) 共振器の入出力の解析に一般的に用いられる結合モード理論に用いた計算モデル.4ポートの入出力を仮定. (b) 有限要素法のモデル.カラーマップはシリカロイド共振器断面の光強度分布を示しています.

Fig. 2 (a) 光Kerr効果による双安定現象.結合が弱いと,熱の影響により双安定形状が崩れていきます. (b) 光Kerr双安定メモリの動作.結合が弱い条件では正常にメモリ動作が行われないことが分かります.

本成果は,Journal of Optical Society of America B 29, 3335-3343 (2012)に掲載されています.