APS March Meeting 鐵本 智大
Research
APS MARCH MEETING 2014学会参加報告書
田邉研究室 修士2年 鐵本 智大
【学会の概要】
APS March MeetingはPhysical Reviewシリーズを刊行しているAmerican Physical Societyが主催する来場者数10,000人を超える非常に規模の大きい学会である.取り上げられるトピックは様々で材料や光学,エレクトロニクス,スピントロニクス,環境,ナノテク等々.ただし,Physical Reviewらしく応用というよりは基礎物理的な内容にスポットを当てた学会であった.本研究室と関連が深い研究者としてはStanford大学のVuckovicやHarvard大学のLukinが招待講演者として名前を連ねており,昨年であればCaltech(現Max Plunck研究所)のPainterもこの学会に参加している.いずれもQuantum~というトピックが好きそうな面々である.学会で取り上げられていたトピックの研究レベルとしては上記したような講演者の世界トップレベルのものからUnder graduate studentの発表まで幅広い(学部生のための専用のセッションが設けられている).多様な分野の様々な研究者たちが一堂に会し,会場は活気に溢れていた.
【自身の発表に関して】
今回の学会において気になった研究に関して何点か報告する.
1.Micro-tweezers for studying vibrating carbon nanotubes
Lipsonが連名されていた発表.カーボンナノチューブを機械共振器として作製し,ディスク型光共振器とのoptomechanicalな強い結合を確認したとのこと.どうやらlast authorで同じcornell大学のMceuenが炭素系材料の専門家らしい.カーボンナノチューブやグラフェンに関する研究でNature系やScienceをバンバン出している.カーボンナノチューブ機械共振器の利点として振動モードが非常に柔軟であることを挙げており,外力に対して敏感に反応するためセンサとしての応用が期待できるとのこと.また,従来は作製手法が難しかったということにも触れており,今回はリソグラフィによる治具部分の作製とCVD法によるカーボンナノチューブの選択的成長を組み合わせた方法で簡単に作成できると主張していた.発表では,カーボンナノチューブの機械共振器としての性能評価や光共振器との結合の確認に言及するに留まっていたが,Lipsonはオプトメカニクスにおいても先駆け的な研究をいくつもしているので,炭素系材料の研究に関わってきているという点は注目したい.
1.Plasmonic and Photonic Lasers Based on Semiconductor Nanowires: Low-loss and High Mode-tunablity
シンガポールの南洋理工大学のSum Tze Chienグループの発表.ナノワイヤー共振器を使ったlasingの話.電気的なバンド幅の調整では難しい発振波長の大幅な変調(モードの変更)を新手法の提案により30 nmを越える範囲で出来るようにし,プラズモニックレーザでは室温で初めて紫外光( 370 nm )の発振を3.5 MW / cm2という低い閾値で達成した.
その新手法というのがどうやら,基本的にはナノワイヤーの長さを変えるだけのようだ.ナノワイヤーが長いほど発振波長はred shiftしていく.どうやら,伝搬距離が延びることで励起子ポラリトンの伝搬ロス・吸収が増加し,レーザ発振凖位に対応するUrbach tailの長さが変化するようだ.論文を見てみると他にも3つくらいの効果が関係しているらしいが,理解が怪しいので説明は割愛する.ただし,いずれも外部からの変調ではなくself-absorptionの効果だという.また,紫外発振に関してはナノワイヤーの厚みを薄くしてエネルギー密度を高めることで発振を可能にしている様子.構造を変えるだけで発振波長の大幅な調整が出来るという点が面白いと思った.
余談であるが,この研究室はNature系やScienceをけっこう出している.HPの略歴によると2008年頃に今の研究グループが立ち上がって,2010年から論文を出し始めたらしい(その前はフェムト秒レーザの分光をやっていた?).準備2年した後の2010年から勢いがすごい.
1.・Hybrid metal-dielectric nanocavity for ultrafast quantum dot optical field interaction.
・Photonic Crystal Cavities in Cubic (3C) Silicon Carbide
いずれもStanfordのvuckovicのグループの研究.一つ目の発表はInAsの量子ドット入りの誘電体(InGaAs)ナノピラーを金属(Ag)で覆った構造で強いlight-matter couplingを達成できたという話.共振器としてのQ値はQ ≈ 25と低くなるがモード体積がV ≈ 0.04 (λ/n)3と非常に小さい.また,カップリング係数はg/2π ≈ 150-200GHzとフォトニック結晶と量子ドットの結合の10倍程度の値が期待できるようだ.また,フォトニック結晶では実験の際に冷却が必要であるが,今回のハイブリッドピラーだと室温での実験が出来るかもしれないという点にも触れていた.
2つ目のものはSiCを使ってフォトニック結晶を作ったという話.Q = 800ということで現状では性能は良くないが,SiCは材料の非線形性や作製の容易性などメリットが多くあるという.個人的には,SiCは熱に強いという程度にしか考えておらず,炭素を含むことから作製は難しいそうだという偏見を持っていたが,改めて調べてみる必要性を感じた.今回の学会では分野が違う発表が多かったため,WやMoなどのあまりなじみのない材料の名前を多く聞いたが,一度半導体関連の材料の物性を整理してみても良いかもしれない.
2本の発表を通じて感じたのは新規構造・材料に対してアンテナをしっかりと張っておく必要性である.研究力の高い研究室は積極的に新しい構造や材料を使った研究を行っている印象を受ける.それは,常に現状の研究に対しての問題意識があるからだと思う.流行を追っているだけでは面白い研究は出来ないが,世の中の人たちの問題意識がどこにあるのかはしっかりと追っていけるようにしたい.
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