CLEO:2015 吉岐 航

Research

CLEO:2015 報告

博士1年 吉岐 航

1.はじめに

博士1年 吉岐 航

2015年のCLEOは5月10日から15日まで,米国・San Joseにて開催された.San JoseはSan FranciscoからCaltrainで1時間ほど南下した辺りに位置する都市である.San Franciscoと同様に天候が良いのが特徴で,会議の開催期間中は連日快晴であった.日中は気温が暖かく湿度が低いので過ごしやすいが,日が落ちると急激に気温が下がるので注意が必要である.本学会に参加するのは修士1年の時以来であったため,San Joseの街並を非常に懐かしく感じた.

CLEOは応物等の国内学会とは異なり,微小光共振器関連のセッションが多数あったので,毎日退屈せず講演を聴講することができた.なお,微小光共振器関連の研究が,微小光共振器の名前を冠するセッションだけでなく,例えば”Nonliner Optics”や”Biosensing”といった一般のセッションにも多く配置されているのが印象的であった.それだけ微小光共振器の利用が一般化したということだろうか.本報告書では自分の発表の結果/反省を報告すると共に,聴講した発表の一部を紹介する.

2.自分の発表について

 [STu1I.4] Low-power on-chip all-optical Kerr switch with silica microcavity

12日午前中の”Nonlinear optics”のセッションで発表を行った.私の発表はシリカトロイド共振器における光Kerr効果を用いた光スイッチに関するものである.本セッションには私の発表以外にも微小光共振器を用いた発表が多数あった.しかしながら,その多くは波長変換や光カーコム関連のもので,私のような時間領域の応用に関する発表は皆無であった.なお,同じセッションにはPurdue univ./WeinerグループやConrnell univ./Gaetaグループ,Caltech/Vahalaグループなど錚々たるグループからの発表がエントリーされていた.また,先日Nature Communicationsに出た”Brillouin-scattering-induced transparency and non-reciprocal light storage”など,研究の質が高い発表も多かった.

私の発表はセッション内では4番目,8時45分からの発表ということでちょうど人が多く集まる時間帯に発表できた.実際,本セッションは注目度の高いコム関連の発表が多いこともあり,立ち見が出るほどの盛況具合であった.質疑の際にいただいた質問は以下の通りである.

  • 熱の影響が顕在する制御光パルスの時間幅はどの程度か.
  • 共振波長を安定化する何かしらの方法を用いているのか.
  • 使用するモードとスイッチに要する制御光パワーとの関係はどうなのか(モードが異なればモード体積も異なるので).
  • スイッチ速度は何に制限されるのか.
  • 入力するパルスの時間間隔は共振器のFSRを考慮して決定しているのか.

(1)から(4)については想定質問だったこともあり滞りなく回答することができた(と思う)が,(5)については英語的にも内容的にも理解できず回答することが出来なかった.今思い返すと,質問内容がFSRと時間間隔に関するものであったので,質問者は光カーコムの研究と混同してしまっていたのだろうと推察できるが,当時はそこまで頭が回らなかった.次回以降は質問者の意図を踏まえつつ回答できるよう精進したい.

3. 注目した発表について

 [SM1l.4] Integragted on-chip C-band optical spectrum analyzer using dual-ring resonator

シリコンチップ上でスペアナlikeな機能を実現したという研究.波長成分を分解する素子としてはFSRが微妙に異なる結合したシリコンマイクロリングを用いている.FSRが微妙に異なっているので,基本的には波長が一致する一組のピークからしか光は透過しない.片方のマイクロリングの共振波長を熱でチューニングすると,共振波長の一致するモードのペアが変わるので,波長を掃引することができる.片方のマイクロリングの共振波長を少し変えるだけで大きく波長を掃引できることがポイントか.なお,本デバイスは入力ポートにマッハツェンダ変調器が組み込まれていて,ロックイン検出を行えるような構成になっている他,受光器も内蔵されている.マイクロリングを用いている故にあまり波長分解能を上げられないという欠点はあるが,上記のような細かい工夫がなされている点が面白かった.

 

[STu1I.3] Highly Efficient Four-Wave Mixing in an AlGaAs-On-Insulator (AlGaAsOI) Nano-Waveguide (Technical University of Denmark)

シリコンにて非線形光学現象を用いる際には,必ず二光子吸収によるキャリア生成が問題になる(キャリア引き抜きでも行わない限り).そこで近年はSiNやa-Si:Hなどがシリコンの代替材料として研究されている.ただし,SiNはバンドギャップは広いがシリコンに比べると非線形性は低い.また,a-Si:Hはシリコンよりも高い非線形性を持つものの,二光子吸収によるキャリア生成を完全には抑制しきれない.その一方,本研究で用いられているAlGaAsは,シリコンより高い非線形を持つと同時に,Al濃度によってバンドギャップを制御できるという特徴を持つ.AlGaAsによる非線形波長変換は初出ではないが,本研究は導波路構造を工夫することにより,波長変換効率を高めている.

[FTu4B.8] Controlling Carbon Nanotube Mechanics with Optical Microcavities (Lipson, Cornell univ.)

シリコンナイトライドによるFree-standing共振器(Q=5×106)を用いて,カーボンナノチューブ(CNT)の機械振動を可視化,また共振器から漏れ出る近接場光によってCNTの機械振動をダンピングを制御.CNTは熱的に振動しており,その振動の振幅はpmと大きい.したがって,共振器に近接させることによって,その機械振動による微小なCNTの変位を共振器からの出力を介して検出することができる.ここでは,CNTの変位による損失の増減を信号として用いている.CNTは治具で挟んで機械的に共振器へと近接させている.Lipsonはこの研究以外にもグラフェンを用いた変調器に関する研究も発表しており([SW4I.4.] 30 GHz Zeno-based Graphene Electro-optic Modulator),明らかにカーボン系の材料に手を出し始めている.

[SM3O.1] Single Nucleic Acid Interactions Monitored with Optical Microcavity Biosensors (Vollmer, MPI)

Vollmerによる招待講演.本発表のポイントは以下の2点である.まず,昨年の慶應で行われたワークショップでも話していたが,結合にテーパではなくプリズムを用いている.機械的な安定性が高いためである.また,プリズムカップリングを行いやすいようにトロイドではなく微小球を用いている.もう一点はプラズモン微粒子を用いて電界増強し,感度を高めている点である.後述するが,微小光共振器を用いたセンシングの最近のトレンドは,プラズモンやOptomechanics,Optofluidicsとの組み合わせによる高感度化及び高機能化のようである.

[AW3K.1] Fluid Coupled Optomechanical Oscillators (H. Tang, Yale Univ.)

[AW3K.2] Surface Sensitive Microfluidic Optomechanical Ring Resonator Sensors (X. Fan, Michigan Univ.)

どちらも微小光共振器+Optomechanics+Optofluidicsの組み合わせによるセンシングに関する発表.Optomechanicsによるセンシングの原理は非常に簡単である.共振器に何か微粒子が付着すると,共振器の有効質量が変化するので機械的共振周波数がシフトする.共振器にCW光を入射してやって出力光をRFスペアナで周波数分解すれば,機械的周波数のシフトが見える.本手法は”重さ”を計測できるという点で,屈折率変化を用いた従来のセンシング手法に対して優位性がある.

前者は導波路と集積されたSiNディスク共振器を用いている.水は可視光に対して透明だが,Siは不透明である.そこで可視光域で透明であるSiNを用いて共振器を作製したらしい.流路を作製することによって液中測定を行っているが,そこで問題になるのが液体によるダンピングである.液中ではQM~1程度まで落ちてしまうらしい.そこでこの研究では十分に高いパワーを持った光でOptomechanicalな振動を増幅することにより,液中でのダンピングをキャンセルしている.その結果,QM~12という液中としては極めて高い値が得られたとのこと.なお,光の入出力はグレーティングカップラを用いて行っている.

後者は中空のシリカボトル共振器(OISTと同じような感じ?)を用いている.こちらはシリカボトル中に流路があるので,テーパを液で濡らさずに済む.本研究における測定対象はHF溶液で,HFによるシリカボトル内壁の削れによる有効質量の変化を観測している.

[STu2I.3] Cascaded four-wave mixing in silicon-on-sapphire microresonators at λ=4.5 μm (Loncar, Harvard Univ.)

[SW4F.2] Quantum cascade laser-based Kerr frequency comb generation (Kippenberg, EPFL)

最後に,あまり詳しくはない分野であるが,カーコム関連の発表について紹介する.上の2つの研究はQCLを光源としてMid-IRのコムの発生を試みたものである.Mid-IRの領域には様々なガスの吸収線が存在するので,センシングに有用である.前者(Harvard)はサファイア上に作製したSiマイクロリングを用いてコム発生を試みている.あえてシリカではなくサファイアの上に成長させる理由は,シリカはMid-IRにおいて吸収を持つためである.その一方,後者(EPFL)は通信波長帯のコムと同様にMgF2共振器を用いているが, Mid-IRに吸収のあるシリカテーパを結合に利用することはできないので,カルコゲナイドファイバからテーパファイバを作製していた.プリズムカップリングという選択肢もあると思うのだが,Mid-IRで透明なプリズム用の材料がなかったのだろうか.いずれにしても,Mid-IRにてコムを出すには何らかの工夫が必要だということだろう.