高Q値モード間結合の時間領域測定

Research

高Q値モード間結合の時間領域測定

フォトンメモリ実現への第一歩

微小光共振器同士が光を介して結合した系である「結合共振器」は古くからスローライトやセンサ,レーザをはじめとする様々なアプリケーションのプラットフォームになり得る素子として盛んに研究されてきました.従来までは,上記のようなアプリケーションを念頭においた,結合共振器の「静的」な性質の利用に関する研究が中心的でしたが,仮に結合共振器の過渡的な振る舞いを観測・制御することができれば,例えば光バッファや光スイッチ,量子情報処理といった「動的」な応用への道が開けます.

このような背景を踏まえ,本研究では,シリカトロイド微小光共振器における超高Q値(>107)な共振モード同士の結合を時間領域での観測を行いました.このような高いQ値を持つ共振モード同士の結合を時間領域で扱ったのは本研究が初めてです.共振モード同士が強く結合していると,光エネルギーが共振モード間を行ったり来たりするようになります(エネルギー振動).超高Q値な共振モードを用いると,このエネルギー振動の回数が増えるので,観測・制御が容易になるというメリットがあります.また,本研究では1つの共振器内に存在する時計回り(CW: Clockwise: CW)および反時計回り(CCW: Counter-clockwise )モード間の結合を用いたため,通常の結合共振器系で必要になる共振器間距離や共振波長の厳密な制御が不要となって,簡易なセットアップで実験を行うことができるようになりました.

coming soon

Fig. 1(a) Schematic illustration and master equations of the developed numerical model. (b) The calculated light energy in the CW (blue) and CCW (red) modes. The inset shows the cavity transmission spectrum (blue) and the Fourier transformed spectrum of the input pulse (green. The parameter used for the calculation is (κγ0γtaper)/2π = (100, 10, 2.5) MHz. The input signal is a rectangular pulse with a pulse width of 10 ns.

Fig. 1(a)に実験の数学的なモデルを示しました.CWモード(aCW)とCCWモード(aCCW)は結合レートκに準ずる周波数でエネルギーを交換し合います.それと並行して,各モードは共振器の固有の損失レートγ0およびファイバへ損失レートγtaperによってエネルギーを徐々に失っていきます.したがって,観測可能なエネルギーの移動の回数は Γ = κ/(γ0 + γtaper) となります.モデルより計算した理論的なエネルギー振動波形をFig. 1(b)に示しました.CWおよびCWモード内のエネルギーが交互に振動しながら減衰していく様子を見ることができます.なお,本研究では超高Q値なモードを用いたため,γ0及びγtaperが小さくなり,Γ~13という大きな値を実現することができました.

coming soon

Fig. 2(a) Schematic illustration of the experimental setup where the two tapered fibers are employed. (b) The experimental result of the observation of the energy oscillation between the CW (blue) and CCW (red) modes. Note that the timings of the CW and CCW signals were calibrated by measuring the delays between the two signals.

Fig. 2(a)に実験のイメージ図を示しました.光ファイバを1本だけ用いる通常のセットアップでは透過光との干渉のためCCWモード内のエネルギーしか観測することができませんが,本研究では,さらにもう1本の光ファイバを利用することによりCWとCCWモードを同時に観測することに成功しました.Fig. 2(b)に実験結果を示しましたが,青実線で示したCWモード内エネルギーと赤実線で示したCCWモード内のエネルギーが交互に振動していることが分かります.また,エネルギー振動の周期や減衰の速度は周波数領域における測定から算出したものと極めて高い精度で一致していること確認しました,したがって,この振動は超高Q値なCWおよびCCWモード間の結合によるものだと結論付けることができます.本成果は,シリカトロイド共振器のような超高Q値共振器同士の結合の動的な制御に向けた初めの一歩となります.

本研究の一部は科学技術研究費(15H05429)の支援を受け実施されました.また,文部科学省補助事業”慶應義塾大学リーディング大学院(オールラウンド型)超成熟社会発展のサイエンス”の支援を受けました.
本成果は Opt. Express, Vol. 23, No. 24, pp. 30851-30860 (2015)に掲載されています.