PECS XII 鐵本 智大
Research
PECS XII 帰国報告
鐵本 智大
日程: 2016年7月17日 — 7月21日
場所: University of York, York, UK
1.学会の概要
7月17日から21日にイギリスはヨーク大学で開催されたPECS XIIに参加してきた(Fig.1).この学会はPhotonic and Electromagnetic Crystal Structuresという名前が示すようにフォトニック結晶およびその関連分野に関する学会で2年に一度場所を変えながら開催される.次回はM. Loncar主催でボストンのハーバード大学近郊になる予定とのこと.世界中から一流の研究者が集まり非常にレベルが高い学会だった(フォトニック結晶の研究者で思いつく人は大体いた https://www.york.ac.uk/physics/pecs-xii/technicalprogram/fullprogram/ .また,E. YablonovitchやJ. Pendry,F. Cappasso (skype参加)などの大御所の参加もあった).講演に関して唯一残念だったのは Painterの発表が中止になったこと.その代わりに協賛のNat. Photonicsの関係者からTen years of Nat. Photonicsという講演が行われ,冒頭のスライドで田邉先生の世界で初めて106を超えたフォトニック結晶共振器の論文が紹介されていた.
今回の学会で特徴的だったのはdiscussionのセッションが設けられていたことだ.議題に上がったのは次のような内容.「共振器に光が入力される際にπ/2シフトが起こるのはなぜか」「共進波長が長いほどhigh Qというデータがあるがそれはなぜか」「1D PhCと2D PhCのどちらが良いか」「最強の材料は何か」などなど.司会のT. Kraussが上手く仕切っていたこともあり時々脱線しながらも議論はそれなりに盛り上がった.そこで感じたのは大体どこの人も同じような問題意識があるのだということだ.先にあげた議題のいくつかは田邉研内でも挙がったことがあるものである.そういった共通の問題意識に対して他の人の意見を聞けるのは面白かった.良い試みだと思った.
また,フォトニック結晶分野における日本の研究グループの研究力の高さを感じた.日本の研究者がほとんどいないWGM共振器分野とは対称的に,フォトニック結晶分野には超高Q共振器作製技術を軸にフォトニック結晶分野の種々の応用を開拓している野田研を始め,スローライトおよび超高感度バイオセンシングの馬場研,光信号処理のNTTの納富研,量子光学の東大の荒川・岩本研など有力な研究グループが揃っている.一方で,他グループは日本のグループを追従し,競合するのではなくプラズモンやメタマテリアルといった他分野の研究に舵を切っているように感じた.これは,応用の芽が中々出なかったフォトニック結晶分野において賢明な判断だと思う.何しろ作製に高い技術が必要な割に使えるかどうか分からないというコスパの悪さである.最近になりフォトニック結晶の応用の芽が多く出てきた印象があるが,そうでなければ日本のグループは応用という観点で取り残されていた可能性がある.研究分野における孤立や新しい分野が勃興した際の出遅れがないよう学会への継続的な参加や研究の方向性の検討の重要性を感じた.なお, Keio UniversityのTanabe Lab.は業界内でほとんど知られてないので,インパクトのある研究を発信していく必要を感じた.
2.自身の発表に関して
今回はファイバ結合型フォトニック結晶共振器による結合共振器形成のisolated modeに関してのポスター発表を行った.発表では10人弱の方々に説明を行ったが,フォトニック結晶分野といってもバックグラウンドは様々で共振器形成の原理など基本事項に関する質問が多かった.一方で,専門が近い方々からは今後の方向性に関する質問を受けたが光信号処理に関する実験をすると言ったものの,既存のデバイスに対して機能面で優れている点は挿入損失が非常に少ないという点だけである.その利点を生かすためにトロイドなど他プラットフォームのデバイスとの結合や量子光学分野における応用などを有力な方向性として考えたい.
3.トピック紹介
T. Cunningham, et al., “Photonic Crystal Enhanced Microscopy for Cell Membrane Imaging and Digital Resolution Biomolecular Sensing”
グレーティング構造における定在波の共進波長変化を用いた細胞イメージング.細胞を薄膜に付着(,培養)した際に,腫瘍浸潤,幹細胞分化,細胞死,がん転移などの細胞の変化が起こるが,これらを詳細に観察するためにはlabel free・定量化可能・高空間分解能・長期利用可といった要求を満たす手法が必要となる.この研究ではポリマーとITOで作製したグレーティング上に細胞を付着することで,細胞付着部の局所的な共振波長の変化から上記の条件を満たす細胞イメージングが可能なことを示した.2011年の段階で論文が出ていたようなので,田邉研でも細胞周期に興味を持っていた時期があったが,その時にはそのための有力そうなツールが世の中にはあったということである.関連研究調査や学会聴講で視野を広げておくことの大切さを改めて感じた.
A. Schulz, et al., “Photonic Crystal Waveguides in a Kagome Lattice”
フォトニック結晶導波路を利用したスローライト発生には三角格子の周期構造の一つのラインを埋めたW1タイプの導波路が主に用いられている.しかし,W1導波路では分散及び損失が大きいバンド端で動作させる必要があるため設計の工夫が必要であり,最適化した際にも群屈折率は150程度に限られていた.この研究ではカゴメ格子構造のフォトニック結晶導波路を用いることでバンド端以外の箇所で群屈折率150を超えるスローライトの実現が可能だと示した(数値解析では10,000以上).導波路上下の欠陥が結合共振器のように振る舞いスローライトを実現するらしい.また,実験的にも群屈折率の測定を行っており,既存素子と同等程度の性能は示していた.カゴメ格子はフォトニック結晶ファイバの応用でよく利用される印象があったが,導波路として利用するということは考えたことがなかった.話を聞いた限りではスローライトに関しては利点が多いので,近いうちに高い性能を示した報告が出てくるかもしれない.
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