誘導ラマン散乱を介した微小光共振器中のラマンコム発

Research

誘導ラマン散乱を介した微小光共振器中のラマンコム発生

ラマンコムを用いたパルス光源実現に向けて

微小光共振器は長時間・小さな体積中に光を閉じ込める素子であり,連続光(CW)を入力することで共振器内の光エネルギーを大きくできます.ここで非線形光学効果の四光波混合を起こすことで,共振周波数に一致した周波数成分を持つ櫛状スペクトルの光を発生できます(光カーコム).この光カーコムは周波数軸で10 GHzから数THzという広いモード間隔を持ち,光通信やマイクロ波発振器,デュアルコム分光,惑星探査のための光周波数コム校正光源などの応用が期待されます.また四光波混合を利用する方法に加えて,誘導ラマン散乱(SRS)を介したラマンコム発生の研究も報告されています.

SRSは光と物質の分子振動の相互作用により,キャリア周波数よりも低い周波数の光が発生する現象です.そのシフト周波数は媒質分子の固有振動モードにより決定されるため,媒質によってラマン利得スペクトルの形状は異なります.このSRSは光増幅やレーザ発振に用いられますが,レーザ発振するためには,光パルス励起のような比較的大きな入力パワーが求められます.しかし,微小光共振器の高い光の閉じ込め性能を利用すると,閾値ポンプパワーを大きく下げることが出来るため,CWレーザから容易にSRSを発生できます.このとき広帯域のラマン利得が複数の共振モードを励起する条件では,その共振周波数に一致した多周波数のラマンコムが生じます.

四光波混合による光カーコムでは位相整合条件を満たしながらスペクトルが拡がるため,それぞれの周波数成分の位相を揃えることが出来ます.一方でラマンコムでは,この位相整合条件とは関係なくスペクトルが拡がるので,通常は各周波数成分の位相は揃いません.しかし,いくつかの研究グループより位相同期したラマンコムの発生が報告されており,これらは小型パルスレーザ光源やマイクロ波発振器,センサー,光干渉断層撮影などの応用が期待されています.しかし,ラマンコムの発生過程やスペクトル形状制御,そのパラメータ依存性などはよく理解されていません.本研究ではシリカガラスの広帯域なラマン利得スペクトルを利用し,シリカロッド微小光共振器中でのラマンコムのパラメータ依存性とその発生過程を明らかにしました.

図1:(a) シリカロッド共振器から発生したラマンコムのスペクトル(青線)とシリカガラスのラマン利得スペクトル(赤線).(b) ラマンコムの拡大図.挿入図は使用したシリカロッド共振器.

本成果の一部は日本学術振興会科研費((JP15H05429),および特別研究員奨励費(JP16J04286)の援助を受けました.
本研究は J. Opt. Soc. Amer. B, Vol. 35, No. 4, pp. 933-938 (2018)に掲載されています.