ナノファイバを用いた高Q値なフォトニック結晶共振器形成

Research

ナノファイバを用いた高Q値なフォトニック結晶共振器形成

光入出力の究極的な高効率化に向けて

フォトニック結晶共振器は光信号処理や量子情報通信の実現のための有力なプラットフォームとして期待されています.しかし,ガラスで作られた光ファイバからシリコンで作られたフォトニック結晶への光の入出力の効率は決して高いものではなく,最適化された入出力ポート(スポットサイズコンバータ)を用いた際も10%程度のエネルギーの損失が発生することが問題でした.また,ポストプロセスによる光回路などの再設計の手段として任意位置への動的な共振器形成が望まれます.本研究では,ナノファイバをフォトニック結晶導波路に接触させることで導波路上の任意の位置に高Q値なフォトニック結晶共振器を形成し,その際の共振器への光の入出力効率を最大化するクリティカルカップリングが実現可能なことを実験的に示しました.

ナノファイバを用いたフォトニック結晶上での共振器形成は2007年にKAISTのYong-Hee Leeらによって提案・実証されました[1].この方法のフォトニック結晶導波路上での共振形成の原理は次のようなものです.ナノファイバをフォトニック結晶導波路に接触させると,局所的な実効屈折率変化が起こります.この際に導波モードのカットオフ周波数が下方シフトするため,ファイバを接触させた位置と接触させていない位置の導波モードの周波数にギャップが生じます(Fig. 1).このモード間のギャップにより,ファイバの接触位置でのカットオフ周波数のモードは非接触位置の導波路を伝搬できず,局所的に閉じ込められることになるのです.しかし,Leeらの実験ではInGaAsPの量子ドットが埋め込まれたInPのフォトニック結晶を用いており,量子ドットの吸収損失により,形成された共振器のQ値は104程度に留まっていました.また,理論的には100%に近い結合効率が実現できることを示しながら,実験的な結合効率は数%に留まっていました.

coming soon

Fig. 1: (a) Band diagram of PhC waveguides in contact with a nanofiber. (b) Schematic diagram of fiber coupled cavity and calculated Hz field profile of an optical cavity created with a nanofiber. The upper and lower figures are views from the top and side, respectively. Light localization is observed at the region where a silica nanofiber is placed on the top of a silicon PhC slab. © 2015 Optical Society of America.

本研究では,シリコンのフォトニック結晶導波路を用いることでQ = 5.1×105の高Q値な共振器形成と39%の結合効率を達成しました(Fig. 2(a)).また,Q = 6.1×103のモードに対して99.6%の極めて高い結合効率のクリティカルカップリングの条件を実現できることを示しました(Fig. 2(b)).以上のように得られた共振モードはナノファイバの接触状態を変えることで共振波長の調整が可能です.また,共振器の位置もナノファイバの接触位置により導波路の任意位置に選択できるという特徴を持ちます.

coming soon

Fig. 2: Transmittance spectrum of a reconfigurable fiber coupled PhC cavity.
(a) The resonant mode with the highest quality factor. (b) The resonant mode with the highest coupling efficiency. © 2015 Optical Society of America.

さらに,今回の実験では単一の共振器から予想されるよりも多数の共振モードが観測されました(Fig. 3(a)).このような透過スペクトルはall-pass filter型の結合共振器系が形成されている有力な証拠です.今回の実験で用いたフォトニック結晶導波路の表面には複数の凹凸が確認されているため(Fig. 3(b)),ファイバ下に凸凹したポテンシャルが形成され複数の共振器がナノファイバとサイドカップル状態で得られたと予想できます.このような結合共振器系の形成は今回の研究で得られた新たな知見であり,光の実効的な伝搬を遅くする遅延素子としての応用が期待出来ます.

本研究の成果は高効率な光信号処理や低損失な光の入出力が要求される量子情報通信の実現に向けた有益な成果と言えます.

coming soon

Fig. 3: (a) Transmittance spectra of TE and TE polarized light. The vertical axis is normalized with the maximum transmittance of the tapered fiber. (b) SEM image of PhC waveguide surface. © 2015 Optical Society of America.

[1] Myung-Ki Kim, et al., “Reconfigurable microfiber-coupled photonic crystal resonator,” Opt. Express 15, 17241- 17247 (2007).

本研究の一部は最先端の光の創生を目指したネットワーク研究拠点プログラムの委託研究として実施されました.
本成果は Optics Express 23, 16256-16263 (2015) に掲載されています.