超高Q値共振器への広帯域光の格納

Research

超高Q値共振器への広帯域光の格納

周波数と時間のフーリエ限界の関係を超えて

超高Q値共振器は光を用いたバイオイメージングや信号処理など,様々な分野での応用が期待されている.共振器の高い光の閉じ込め性能により,長い時間の間一か所に閉じ込められた光は,物質との間で強く相互作用できる.

図1(a)フーリエ限界パルスとチャープパルス.(b)共振器スペクトルと入力スペクトルの関係

しかしながら,光を長い時間閉じ込められるということは,短時間で光を格納することができないという事に繋がるため,超高Q値共振器には超短パルス光を格納することができないと考えられる.周波数軸状で考えた場合,超短パルス光のスペクトル幅はフーリエ変換の関係からわかるように広帯域であるが,一方,高Q値共振器の共振スペクトル幅は狭く,通常であれば共振スペクトル幅と同じ程度の帯域のパルス光しか格納できない.そのため,広帯域な周波数成分を持つ光と物質の相互作用を見たい場合,どうしても低Q値の共振器を使わなくてはならなかった.そこで我々はKerr効果とチャープ技術をうまく組み合わせることにより,Q値による制限を超えるパルス幅の光を格納することを目指した.Kerr効果により共振周波数は低周波数側にシフトするので,共振スペクトルの移動に合わせて入力するパルス光の瞬時周波数を変化させれば,結果的には共振スペクトル幅以上の帯域のパルス光を共振器内部に格納することができるはずである.そこで,ガウシアン型の超短パルス光に最適なプリチャープを加えれば,広帯域光を狭線幅共振器に格納できることを確認した.

図2(a)チャープ量ごとの入出力エネルギ比.(b)最適な条件時の入出力スペクトル

我々は結合モード理論式を用いた解析を行った.モデルとしたのはQ値が3×10(光子寿命 : 2.46 ns)であるSiNリング型共振器で,最適にチャープした超短パルスの格納を試みた.

今回我々はチャープ量を最適に計算することで,光子寿命が2.46 nsの共振器に半値全幅が0.37 nsのパルス光を格納することができることを示した.これにより,従来ではできなかった通信レートの全光論理回路や超広帯域センシングが高Q値共振器で実現できるのではないかと期待できる.

成果はJpn. J. Appl. Phys., Vol. 54, No. 12, 122201 (2015).に掲載されています.
本研究の一部は戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)の委託研究として実施されました.