FiO 2017 藤井 瞬
Research
Frontiers in Optics 2017報告書
修士2年 藤井瞬
会期 2017年9月17日~9月21日
会場 Washington Hilton, Washington DC, USA
1.学会について
9月17日~21日にアメリカ合衆国・ワシントンDCにて開催されたFrontiers in Optics 2017に参加した.FiOは今年で101回目を迎えるOSAの年次会議であり,光学・フォトニクス分野の最新研究が数多く発表される.本年度は合計55にも及ぶセッションで口頭発表とポスター発表合わせて計718本の学会論文が4日間で発表され,多くの活発な議論が交された.ワシントンDC中心部へは直通便で13時間ほどでダレス国際空港へ降り立ち,さらに1時間程度公共の交通機関を乗り継いで行くことができる.アメリカ政治の中心地であるDCにはホワイトハウスや国会議事堂といったまさに国の中枢ともいえる建物が集結している.その一方で近隣には鮮やかな緑色の芝が広々と拡がるナショナルモールや無料で入館できるスミソニアン博物館があり,多くの観光客で賑わっている.スミソニアン博物館の圧倒的な所蔵量とそれらの文化的価値は世界中のどこの博物館を探しても比較にならず,さらにそれらを無料で見ることがであるというのは驚くべきことである.
今回はアワードの受賞式を兼ねたバンケットに出席することができ,同世代の学生と親交を深めることができた.バンケットではトランプ大統領のモノマネなど様々なイベントが用意されておりそれなりに楽しむことができたが,私ともう一人の韓国人の学生は時差ボケにかなり苦しめられていた.学会のレセプションパーティーでは照明などのライティングに凝った演出がなされ,いかにも光を専門とする学会らしいという印象を受けた.さらに地元の野球チームであるワシントン・ナショナルズの名物イベント「プレジデントレース」で登場する4体の巨大な着ぐるみがレセプションパーティーに乱入し,ぎこちないダンスで会場を盛り上げた.
2.自身の発表
今回の発表は非線形結合モード方程式を利用した結合共振器系における正常分散光カーコムに関するものであった.通常のポスター発表に加えて数名が選出されるラピッドファイアーオーラルの発表も行った.いつもに比べて準備期間が短かったことと,カウントダウン方式で迫りくる制限時間が影響してやや緊張した発表になってしまった.発表後はすぐにポスターに移動してディスカッションを行った.ラピッドファイアーの効果があったのかは不明だが,幸いにも一人ではさばききれないほどの多くの人に来ていただくことができ,多少の満足感があった.特に光カーコムの理論に強いC. Menyukグループの学生とは非常に内容のあるディスカッションができ,改めて自身の研究のアピールポイントを確かめることができた.また,非線形結合モード方程式の計算を始めたいという人からアドバイスを求められ,参考となる論文やアルゴリズムを紹介した.今までやみくもにトップグループを追いかけてきた田邉研のコム班としてはそのような意見をもらうのは嬉しい反面,新たなコンペティターの登場でもあるのでより一層気を引き締めて研究を続けていかなければならない.
3.関連する研究の紹介
[JTu3A.14] Dark Solitons and Cnoidal Waves in Microresonators with Normal Dispersion
光カーコムの理論に強いC. Menyukグループのポスター発表.Cnoidal wave(クノイダル波)は聞き慣れない言葉であるが,波動方程式の周期解を意味するもののようでTuring pattern (roll)と基本的には同じものだと考えてよいと思われる.自身のポスター発表で議論した学生の発表であるが,主に正常分散領域におけるLLEの周期解を解析的に検討したという内容だった.異常分散領域において検討した論文がJOSABでpublishされており,それに関連する研究であったのだが,その内容はかなり難解である.結論としては異常分散では周期解が容易に見つかる一方で,正常分散においてはダークソリトンと比較して周期解に到達することが難しいということであった.定性的によく知られている現象ではあるが,このような事柄を数学的に証明していくことには価値があるかもしれない.田邉研で行う光カーコムの計算は数学的な解析解を求めるものではなくあくまで数値的に解いているもので大きくアプローチが異なる.この手の理論研究は私たちにはかなり難しく感じてしまうため,逆に私たちの研究を相手に興味をもってもらえたのは意外だった.
[FTu4B.5] Efficient visible frequency microcomb generation with 22% conversion efficiency
アルミニウムナイトライド共振器では二次非線形光学効果(ポッケルス効果)と三次非線形光学効果(カー効果)が両方存在するため,1550 nm帯でポンプするとき,1550 nmと780 nmの両方で光カーコムが生じる.この研究ではポンプモードとSHモードが非線形過程を通じて結合するときにCherenkov-likeな放射(分散波)が発生することに着目し,ポンプ光から可視光への変換効率22%を達成した.高調波を利用して可視光コム発生を狙った研究はいくつあるが,どれも低効率という問題点を抱えていたため,ポンプモードとSHモードのパラメトリックな結合を利用することで高効率を実現した点は興味深い.現状では低Q値であることに加えてしきい値パワーが高いため,CWレーザをEO変調した10 nsスクエアパルス(増幅後のピークパワー10 W)で励起している.共振器寿命の1 nsよりも十分に長いパルスを使うことで擬CW(quasi-CW)ポンプ状態であることから,十分にカーコムの発生が可能であるという.しかし結果的にはパルス励起であることと材料の熱特性により低コヒーレンスなコムになってしまうことが問題であるとのことだった.シミュレーションではCWポンプによるソリトンが達成できており,そのとき可視光帯のコヒーレンスがどうなるのかが興味がある.
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