多角形状共振器がQ値に与える影響の解析

Research

多角形状共振器がQ値に与える影響の解析

高Q値微小光共振器の最適化に向けて

微小光共振器においてより性能の良い光閉じ込めを実現するために,光共振器を,光吸収のより小さな結晶材料を用いて作製することが着目されています.田邉研究室では,レーザ溶融ペデスタル法と呼ばれる結晶成長技術を用いて直接光共振器を作製する手法を開発しましたが,断面形状が多角形となってしまうことが明らかになっています.今回,田邉研究室では多角形共振器に存在するモードのQ値が円形から六角形になるにつれてどのように変化するかを解析し,より高いQ値を得るための指針を明らかにしました.我々はperturbed-whispering gallery mode (WGM)とquasi-WGMの2つのモードに注目しました(Fig. 1(a)及び(b)).Perturbed-WGMは共振器の側面に沿って全反射しながら周回するモードで,quasi-WGMは多角形の各面で全反射するモードです.
これら2つのモードに対して,6角形共振器の角の曲率半径rをパラメータとして解析を行いました.

Fig. 1 (a) Perturbed whispering gallery mode. (b) Quasi whispering gallery mode.

角の丸みを変化させると,perturbed-WGMとquasi-WGMの共振波長が変化するものの,変化率が異なるため,2つのモードはr=17.7 μm付近で交差します(Fig. 2(a)).交差点を拡大すると(Fig. 2(b)),2つのスペクトルピークは反交差(anti-crossing)していることがわかり,それは2つのモードが強く結合していることを表しています.

Fig. 2. (a) 角の丸み(角の曲率半径)を変化させたときの中心周波数の変化.
(b) Perturbed-WGM とQuai-WGMの交点部分の 拡大図.2つのモード間隔は29 GHzである

この強い結合が,2つのモードのQ値の独立な存在を制限していることを今回新たに発見しました.その結果が,Fig. 3に示されている角の曲率半径とQ値のグラフです.本来rに鈍感と予想されるQuasi-WGMにおいても,2つの(実際には無数のモードの結合が存在する)モードの結合によって共振器が多角構造化するとperturbed-WGMと同様のQ値の低下を見せることがわかりました.

Fig. 3: Perturbed-WGM とquasi-WGMの角の曲率半径に対するQ値.

多角構造においても高Q値モードが存在し得るかどうかについて調査し,高Q値を得るためには本質的に共振器構造を円形にする必要があることがわかりました.そこで,我々は円形に結晶を成長可能な結晶軸を得るためのプリヒーティング手法を開発し,良好な円形形状を得てQ値を向上することにも成功しました.

本研究の一部は戦略情報通信研究開発推進制度(SCOPE)の委託研究として実施されました.また,科学技術研究費(2560018)及び慶應義塾大学次世代研究プロジェクト推進プログラムの資金的援助を受けました. 本研究の成果は,Physical Review A 88, 023807 (2013)に掲載されています.