IEEE Photonics Conference 鐵本 智大

Research

IEEE PHOTONICS CONFERENCE 2014参加報告書

田邉研究室 修士2年  鐵本 智大

10月12日~16日に米国カルフォルニア州サンディエゴで開催された
IEEE Photonics Conference 2014に参加してきたので活動の概要を報告する.

【学会の概要】

IEEE Photonics Conferenceは米国のIEEEが主催するシリコンフォトニクス関連のデバイスやシステムに関する研究学会である.今年は,マイクロキャビティ関連の研究の報告が多く,Vahalaを始め名前を知っている著名な研究者の話を聞くことが出来た.なお,研究発表の多くはinvited speakerだった.聞いた話ではCLEOが色々な発表を聞いて情報を集める場でOSAや今回のIPCはまとまった話を聞いて勉強するという場という位置づけがなんとなくあるらしい.学会の規模としてはそれほど大きくはなく,会場はホテルのワンフロアの一部,参加者200~300人程度(鐵本の推測)でかなり分野が近い研究者が集まっている印象だった.そのため,よく人に会える.知り合いを作るには良い学会だと思う.僕自身,僕の発表後に質問してくれたPurdue大学のWeiner研の学生と知り合いになれた(彼も話したい人がいるのか,いつもI’m looking for someone.とキョロキョロ人を探していた.ちなみに,以前の学会で僕が知り合ったPurdue大の子と友達だった.).知り合いが増えたら楽しいので,積極的に友達を作るのが良いと思う.

Fig. 1: (左)学会会場のホテル. (右)IEEE Student member用のラウンジ.フルーツが置いてあるが食べて良いのかどうか不明.
Fig. 1: (左)学会会場のホテル. (右)IEEE Student member用のラウンジ.
フルーツが置いてあるが食べて良いのかどうか不明.

【自身の発表に関して】

発表はギリギリまで資料・原稿を改訂して練習して臨んだ.原稿自体はほぼ覚えていたのだが,現地に着いてからの練習でどうしても発表時間内に収まらない内容だと気づいたからだ.当日の発表ではなんとか時間内に収めることができ,出来は70点くらい.今出来る合格点の発表は出来たと思う.発表後には3件の質問を受けた(動作速度,光路変換に共振器を使う理由,何の力を使うのか).基本的に僕の研究の設計に関しての質問だったので,今後はややこしい(工夫が多い)設計の話はもっと分かりやすくするように気を付けたい.また,3件目の何の力を使うのかという質問はopto-mechanicsの分野ではoptical radiation forceと話せばどういう力か伝わると考えていた僕にとって考えさせられる質問だった.確かに,僕が今回の研究においての設計で利用している光輻射圧は引力であり,光が物体にぶつかったときに生じるradiation pressureと同列に考えづらい.僕自身は重力と同じようなポテンシャルがあると考えており,共振器の構造は内部の光のエネルギーが低い状態(共振波長が短い状態)に引き込まれるような力が構造に働くと理解している.ただ,この理解が正確かはわからないし,radiation pressureやoptical forceなどの言葉の使い分けも適当なとこがあるので,今一度理解を深めて今後正確な説明ができるようにしたいと思う.

【研究トピックス紹介】

今回の学会では前述した通り,マイクロキャビティ関連の報告が多くあったので,知っている話題が多くあった.春コロでサポートを担当した小畠のSNAPと小林のopto-mechanicsの流体センシングの発表は両方ともあった.また,メタマテリアルやスポットサイズコンバータと言った構造の作製が難しそうな研究に IMECを利用していた研究者が何人かおり,ファウンダリの普及と精度の向上のおかげで作製のハードルは低くなりつつあるのを感じた.
以下,今回の学会で特に気になったいくつかの発表について紹介する.

【TuF3.1: X. Jiang, et al., Ultrahigh-Q microcavities with highly directional emission】北京大学のXiao先生のグループの発表.トロイドを楕円形にすることで方向性を持った空間的な入出力が出来るようにする話は知っていたが,今回改めて原理についてしっかりと話を聞いた.深いところではカオスが関係するらしいが,結局は全反射条件を一部だけ満たさないようなトロイド構造を作っているようだ.ただ,その作製精度の高さには驚かされる.参考にすることでトロイドの高精度の共振波長のコントロールは出来ないだろうか.パッケージ化する上では必要な技術だと思う.空間カップリングのメリットとして,結合Q値が安定することがあるが,それを利用して共振スペクトルのmode splittingではなく,mode broadeningから超高精度なセンシングをしようとしているらしい. 改めて聞いて筋が良さそうだと思った.

【WH.4. 3: B. Oner, et al., Broadband one way propagation via dielectric waveguides with unequal effective index】
MZI型の干渉計構造のアイソレータの数値解析の話.原理がシンプルなので紹介したい.デバイスの構成は例えば次のようなものである.左から一本の導波路が伸びており基本モードのみが伝搬できるように設計されている.これが,右にいくにつれて徐々に広がっており2次のモードの伝搬が許容される幅となったところで導波路が2本に分かれる.2本に分けられた導波路はそれぞれ幅が異なっている.別れた導波路は1,2次の2つのモードが伝搬できる導波路に右側で繋がる.
2本に分かれた導波路は幅が違うため伝搬定数が異なり,ちょうど位相がπだけ反転する長さに設定されている.このため,2本の導波路に同時に入力された光は再び合わさる際に2次の奇数対称性を持ったモードを形成する.このとき,右から入力した光はテーパ構造を経て左の導波路に進む途中に1次のモードへと移ることが出来ないため導波出来ないが,左から入力した光は右の導波路を2次の奇数対称性のモードとして伝搬できる.このようにしてアイソレータのように動作する.スプリットした2本の導波路幅をほぼ同じにしているため,動作帯域を広く出来る点が特徴のようだ.

【WH.4. 4: R. Van Laer, et al., Observation of 4.4 dB brillouin gain in a silicon photonic wire】
シリコンワイヤを利用して誘導的に高いゲインのブリルアン散乱を励起したという内容.機械振動の損失を小さくするためシリコン層の下のシリカ層を10nm程度に削り,フォトンとフォノンの相互作用距離を長く取ることで(数cm程度)従来の9倍の利得損失比を得ることが出来た.コンセプトはまさにフォトニック・フォノニック共振器の設計と同じ.導波路型だと光共振器内に進行波と後退波が同程度存在しそうだが両方のラマン光が出るのだろうか.また,ブリルアン散乱の励起は簡単には見れなそうという偏見を持っていたが,光を高い強度で入れれば他の非線形と同じように見えるらしい.設計を十分に考えることで励起できそうだと思った.興味を持っている分野なのでチェックしていきたい.なお,以前に加藤さんと話したオプトメカニクスによる変調での光kerrコムの発生と似たようなものがNature Physics 5, 276-280 (2009)でブリルアン散乱を介して見えていた模様.

【総括・感想】

今回はマイクロキャビティ関連の発表が多く,興味のある分野の発表を多く聞くことが出来た.特に,opto-mechanicsのspecial symposiumでは自身の今後の研究の方向性を考える上で有益な情報を仕入れることが出来た.
一方で,本文では触れなかったが,英語力の重要性を再認識した.英語が喋れないのは基本的に日本人だけである.今回の会議では複数の日本人の発表を聞くことが出来たが,作ってきているはずの発表の英語すら覚束ない人もいた.英語が喋れない姿を見て退室している研究者も明らかにいて,日本が研究やその他の分野で国際的な競争力を保っていけるのか心配になった.研究の質を高めることはもちろんであるが,それを伝える手段・研究者と交流する手段として英語力を磨くことは非常に重要である.僕は学会前でさえ英語の勉強をサボっていたが,今後は意識的に英語を聞いて話をする練習をしていこうと思った.