光カー双安定メモリ実現に要する詳細な条件の解析

Research

光カー双安定メモリ実現に要する詳細な条件の解析

光カー効果による全光メモリの実現に向けて

前の研究成果により,光カー効果を用いた光メモリを実現するためには「テーパ光ファイバとの強い結合」及び「2本テーパ光ファイバを用いたアドドロップ型の構成」という2つの条件が必要であることが明らかとなりましたが,これらの定量的かつ詳細な条件については依然不明なままでした.そこで本研究では,光メモリ実現に要する定量的な条件,およびその際に得られるメモリの性能について詳細な検討を行いました.
光カー効果を利用するためには吸収係数が低く熱が発生しにくい材料によって作製された共振器を用いる必要があります.そこで本研究では低い吸収係数を持つということが知られているSi3N4およびシリカを用いた共振器であるSi3N4マイクロリング(Fig. 1(a))およびシリカトロイド共振器(Fig. 1(b))を解析の対象として用いました.解析には,以前の研究と同様に,結合モード理論と有限要素法とを組み合わせた数値解析を利用しました.

Fig. 1 Schematic illustration of (a) a silicon nitride microring and (b) a silica toroid microring. Cross-sectional images are the intensity distributions of the optical mode. The white solid lines in the color maps represent a boundary of materials. White solid lines in the color maps represent a boundary of materials.

Figure 2(a)-(b)に解析した結果を示しました.横軸は共振器の光子寿命(導波路との結合強度に依存する量),縦軸は共振器の共振波長と入力光波長とのずれを表しています.カラーマップは横軸および縦軸に対応する条件を利用した時に光メモリを駆動に要する駆動パワーを表しています.また,グレーのエリアは,蓄積された熱の影響によりメモリ動作が不可能となる点を表しています.この図より,メモリ駆動のために必要な条件と,その際にメモリが要する駆動パワーを知ることができます.Figure 3には解析によって得られたメモリの駆動速度とメモリの駆動パワーの関係を示しました.Si3N4ではどのような条件を用いても1.8 W以下のパワーでは駆動できない一方で,シリカでは吸収係数がSi3N4よりも低いため1.7 mWのパワーで駆動可能であるということが分かりました.本研究により,近年非線形光学デバイスのプラットフォームとして注目を集めているSi3N4は光カーメモリとして用いるには不適である可能性が示唆されたほか,シリカプラットフォームの有利性を示すことができました.また,メモリ駆動に必要な定量的な条件およびその性能を明らかにしました.

Fig. 2 Required input drive power for different loaded photon life times (τload) and detuning values (δ). (a) A Si3N4 microring and (b) A silica toroid microcavity. Kerr bistable memory cannot be achieved in the “impossible” areas (indicated as gray). The upper axis represents the response speed of the device.

Fig. 3 Trade-off between the required input drive power and the response speed via loaded photon lifetime. The red and blue plots are for Si3N4 microring and a silica toroid microcavity.

本研究の一部は戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE) の委託研究として実施されました.また,文部科学省補助事業”慶應義塾大学リーディング大学院(オールラウンド型)超成熟社会発展のサイエンス”の支援を受けました.
本成果はJapanese Journal of Applied Physics 53, 122202 (2014) に掲載されます.