光カー効果を用いた全光スイッチで世界最小パワーを達成

Research

光カー効果を用いた全光スイッチで世界最小パワーを達成

スイッチに要するパワーをどこまで低減できるか

今日までに多くの全光スイッチが実現されてきました.中でも半導体によって作製された微小光共振器を用いた全光スイッチは集積性や消費エネルギーといった点で優秀ですが,その一方でスイッチ動作に用いるキャリア生成による損失が生じます.この損失はスイッチを量子情報通信のようなロスに弱いアプリケーションに用いる際やスイッチをカスケードする際に問題となる可能性があります.キャリア生成を伴わない光カー効果をスイッチに用いればこの問題を解決することができますが,光カー効果を起こすためには高い光パワーが必要である点が問題とされてきました.そこで本研究ではシリカトロイド共振器を用いることにより光カー効果を起こすのに要するパワーを大幅に低減させ,光カー効果による光スイッチとしては世界最小パワーでの駆動に成功しました.

シリカトロイド共振器は極めて高いQ値と小さなモード体積を持っているため,光カー効果を低入力パワーで起こすことができると期待できます(Fig. 1).しかしながらこの共振器中では光カー効果の他にも熱光学効果と呼ばれる,光吸収によって発生する熱に起因する効果も存在します.通常は熱光学効果の方が光カー効果よりも大きいので光カー効果のみを選択的に利用することができませんが,本研究では光カー効果の方が遥かに速い応答速度を持つことを利用して,熱が応答できない程度に短い時間幅を持った光パルスを入力することにより光カースイッチを実現することを目指しました.

Fig. 1 Scanning electron microscope image of a silica toroid microcavity.

Fig. 2に実験結果を示しました.青の実線が信号光の出力,グレーのエリアは制御光が入力されていることを表しています.仮に光スイッチが実現されていれば,制御光入力時のみ信号光の出力がONとなるはずですが,Fig. 2ではまさにそのような動作を観察することができます.また,本スイッチの応答速度は6 nsと測定されましたが,これは熱が応答するには短すぎる時間ですので,この結果は光カー効果によって得られたものだと結論付けることができます.なお,Fig. 2で用いた共振器ではFig. 3の左に示した通り最小でも830 μWのパワーをスイッチに要しましたが,より高Q値な共振器を用いることにより,そのパワーを36 μWまで低減することに成功しました(Fig. 3右).これはこれまで報告されてきた全ての光カースイッチの中で最小のパワーです.

Fig. 2 All-optical switching operation based on Kerr effect. The solid blue line represents the signal output and the gray area indicates that the control light is inputted. The signal output is normalized by the off-resonance output. The red dotted line represents the signal output calculated by the simulation.

Fig. 3 Minimum required control power for Kerr switching when a cavity with Q of 5×106 (left) and 4×107 (right) are employed.

本研究の一部は戦略的情報通信研究開発推進制度(SCOPE) の委託研究として実施されました.
本成果はOptics Express Vol. 22, No. 20, pp. 24332-24341 (2014)に掲載されます.