OSA (FiO/LS) 2015 小畠知也 ・玉木翔・ 中川陽介

Research

2015 OSA (FIO/LS) 帰国報告書

M2 小畠知也,玉木翔,中川陽介

1.はじめに

今回参加したFrontiers in Optics/Optical Society of Americaは2015年10月18日から22日まで,米国・San Joseにて開催された.San JoseはSan Franciscoから電車で90分ほど南下した辺りに位置する都市である.Silicon Valleyとしても有名であり,今回訪問したスタンフォード大学が近くにあるほか,Google,Facebook,AppleなどのIT企業の一大拠点となっている.また今回の日程においてSan Joseは常に快晴であり天気予報を見る必要が無く過ごし易いように感じたが,1日の寒暖差が大きく注意が必要であった.さらに治安に関しても公共交通機関内での暴力行為を目撃し,身の危険を感じることがあった.

我々3人にとってFrontiers in Opticsが初の海外での発表であった.Frontiers in Opticsでは学会名にOpticsが含まれているだけあって光関係の研究しかなく,講演内容の雰囲気を掴みやすいと思っていたが専門外のセッションは理解できないことが多かった.ただ田邉研究室と同じ分野で論文の投稿数が多いグループの発表も多数あり,内容もよく理解できたので大変有意義であった.また多くの招待講演があり,世界の第一線で活躍する研究の講演を聞けたことは大変貴重な経験だったと思える.

2.自分の発表に関して

JTu4A.45 “Temporal cavity soliton generation without laser scan in a crystalline microcavity with negative TO coefficient.”
Tomoya Kobatake, Takumi Kato, Hiroki Itobe, and Takasumi Tanabe
ポスター発表を行った.内容がかなり専門的なものだったこともあり,見に来てくれた人の前知識は日本とあまり変わらなかったように思う.ほとんどの人に質問されたのが実験はやっていないのか,何故やらないのかということで,計算だけでなく実験で実証することが面白い研究として成立させるために重要であることを改めて実感した.一方で以前の応用物理学会で伝えづらかった部分を改善したので,説明しやすかった点は良かったと思う.

JW2A.32 ‘‘Dispersion tailoring of a crystalline whispering gallery mode microcavity for octave-spanning Kerr frequency comb.’’
Yosuke Nakagawa, Takumi, Kato, Yoshiki Wataru, Yuta Mizumoto, Yasuhiro kakinuma and Takasumi Tanabe
私は21日9時30分から11時までJW2A・Joint FiO/LS Poster session IIにおいてポスター発表を行った.OSA (FiO/LS)では分散や微小光共振器に関する講演もあり,それらの分野の研究者が来ると思っていたが,専門でない人が関心を持ってくれることが多かったように思う.また小畠のコメントと同様に実験に関する質問が多く,実証の必要性を感じた.質疑においては相手の質問内容を何とか理解できたように思うが,回答内容を英語で表現することに時間がかかる,またはできないことがあったので語学力の向上が求められる.

JW2A.11 ‘‘Characterization and fabrication of silica-gold composite toroidal microcavity’’
Sho Tamaki, Yoshiki Wataru and Takasumi Tanabe
私の発表は10/21の9:30~11:00のポスターセッションで行った。今回はシリカトロイド微小光共振器に金ナノ粒子を入れた際の計算による共振器の非線形性の向上の成果とスパッタリング法を用いて作製した際の光吸収の増加とTOスイッチの成果を発表した。私の隣で発表をしていた人もシリカトロイド微小光共振器における光カーコムの計算の成果の発表をしていた。私の発表で受けた主な質問は以下の通りである。

  • 吸収のみの影響を仮定したQ値の計算を行っているが、金ナノ粒子をドープすればモード分布が変わるのではないか
  • スパッタリング法であれば、金は粒子として共振器内部に存在しているのか
  • 金ナノ粒子をドープすることによるメリットは何か
  • 今後の展望はどういったものか

想定内の質問が多かったが、一番上のモードの分布が変わるのではないかという指摘は自身でも考慮しておらず、検討をする必要があり、非常に良い指摘を頂けた。

滞在したarthotel munichと街並み.

3.気になった他の人の発表

[FM1B.2.] Silicon Nanoparticles for Waveguiding
光を波長程度以下の狭い空間で伝搬させる方法として表面プラズモンを利用する方法があるが、それらは金属の光吸収が大きいというデメリットがある。それを解決するためにシリコンを数10nm単位でパターニングを行い、周期的構造をした導波路の研究が発表された。720nmの光を2.5db/100μmの損失で伝搬させる事が達成された。この研究がプラズモンにとって代わる日が来るかもしれない。

[FMD.5.] Ultra-narrowband tunable microwave filter created by stimulated Brillouin Scattering in a silicon chip
シリコンナノワイヤを用いて誘導ブリルアン散乱を利用した光のノッチフィルタの成果が発表された。消光比は48dBで98MHzと非常に高い性能を誇っている。波長のフィルタはSBSのポンプ光の波長を制御することによって波長のチューニングを行う事ができる。シリコンナノワイヤの非常にシンプルな構造の利用方法に興味が湧いた。

[FTu5C.5.] Molecular Optomechanics with Plasmons: backaction at the nanoscale
表面増強ラマン散乱の強度は実験値と理論値に大きな差がある背景があった。その理由として理論値の計算では局在表面プラズモンにおけるオプトメカニクス(共振による振動)を考慮していない為である。そこでオプトメカニクスの振動に合わせて、ブルーデチューニングを行うと、表面増強ラマン散乱の分子振動を増強する事ができる事が判明した。この発見は実際の実験系を組む際に考慮に入れる事で、分子振動をより大きく読み出す事ができる。

Ftu2E.2 “Optical Frequency Comb Generators for Trace Gas Sensing” Adam J. Fleisher, David A. Long, Joseph T. Hodges, Kevin O. Douglass, Stephen Maxwell, and David F. Plusquellic
NISTの研究で,応用物理学会で発表していたのと同様EOMベースの光コムを使用したデュアルコムガスセンシングを行っている.このデュアルコムを用いた分光の大きな特徴は測定の速さで,デチューニングのスイッチングを10 μsのオーダーで行うことができる.測定の可能なのはCOが10 ppm,CO2で15 ppm,H2Oが0.5 %である.EOMベースのコムはCW励起でかつ周波数の調整が容易であるため使い勝手がよく,報告されている応用としてもかなり実用的なレベルに迫っていると感じた.

4.スタンフォード大学訪問

JSPS Core-toCoreプログラムの事業参加者であるMark Brongersma教授のセミナーのためスタンフォード大学を訪問した.訪問先であるMark Brongersma教授の研究室はプラズモニクスや半導体ナノフォトニクスを専門としており,Nature communicationsやNature materialsといった有名論文誌に数多くの成果を報告していた.実験室の見学もさせていただいたが,一つ一つの実験設備の質は我々と大きく異なるわけではなく,研究における発想や地道な努力の大切さを再認識させられた.具体的な研究内容としては,例えばAuフィルム上にGe細線を作成することでメタフィルムを構成し,さらに細線の位置の自由度により共振吸収スペクトルを調整できる(Nature communications 6, 7591 (2015))といったものを紹介していただいた.