OSA (FiO/LS) 2015 加藤 拓巳

Research

2015 OSA (FIO/LS) 帰国報告書

加藤拓巳

1.概要

10月18~22日にOptical Society of Americaが主催するFrontiers in Optics 2015に参加した.本学会には2012年度に参加して以来なので,3年振りであった.国内学会とは異なり,微小光共振器分野の報告が多いので,最新の研究動向を調査するため,多くのセッションを梯子しながら回った.Stanford大学のVuckovicや,ETHのFaistなど著名な研究者の招待講演があり,非常に勉強になった.カナダでお世話になったINRSのMorandotti教授のグループや,OISTのNic Chormaic教授のグループなど見知った研究者も散見され,国際学会とはいえある程度固定されたメンバーが学会に参加していることにも気づいた.彼らにとっても,田邉研がそのような存在になるよう今後も国際学会に積極的に投稿していきたいと感じた.

2.自分の発表に関して

FTu2E “Influence of Raman scattering on Kerr frequency comb in a silica toroidal microcavity,”という題目で口頭発表をおこなった.内容は9月の応用物理学会での報告と同じものであるが,英語発表ではありながら,今回の方が良い発表ができたと感じた.10分という短い時間で何を伝えるのかを明確にして,準備したことが良かったと思われた.質疑は以下の二つであった.

  • FSRが数十GHzである場合には,四光波混合がラマン散乱に対して支配的になるのか.
  • シミュレーションの計算パラメータに関して.

FSRがどのくらいの大きさの場合に,四光波混合とラマン散乱のどちらが支配的になるのかを明確に示すことができるように分散や非線形係数のパラメータをふったデータがあると非常に分かりやすいことが分かった.

3.研究動向調査

【Kerr frequency comb関連】
FM1D.2 Stabilized on-chip optical frequency combs *UCLA Chee Wei Wong等
SiNリングを用いたコム発生の報告.カーコムの安定化の研究はこれまでも多数存在したが,オンチップという命題ではなかった.本研究は,FSRの小さなカーコム(数十GHz)を発生させ,menlo社のファイバコムと干渉させながら,高い安定性を得たとのことである.内容よりは,UCLAのグループがカーコムの発表をしていることに注目した.

FM2D.3 Towards Automated Deterministic Comb Generation in Microresonators: Overcoming Thermal shift *Purdue Univ. Weiner等
カーコムを,いかにして確実にソリトン状態に導いていくかの報告.カオス状態における共振器内部パワーの振動がその後の状態を不確定にしていることに着目し,カオス状態を回避しながら,ソリトン状態に移行する条件を検討している.シミュレーションには,熱光学効果を加えていないため,実験ではどのようにして熱光学効果の影響を回避できるかに着目していた.

FTu3E.2 Quantum cascade laser Kerr frequency comb generation *EPFL Kippenberg等
中赤外帯でのコム光源を目指したカーコムに関する報告.共振器はMgF共振器.ポンプ光は量子カスケードレーザ.エヴァネッセントカップラはカルコゲナイドファイバ.分散があまり良くないため,そこまで良い結果は得られていないが,共振器の構造分散を工夫することで改善が可能とのこと.SiNリングを用いる方式も研究しており,こちらも中赤外帯に適応するためにいくつか工夫しているようであるが,まだ実験結果は出ていなかった.

FW3C.1 Broadband Frequency Combs on a Photonic Chip Using Soliton Induced Cherenkov Radiation *EPFL Kippenberg等
SiNリングを用いたカーコムに関する報告.分散波を利用し,広帯域コムを実現すること.2f-3fによるcarrier-envelope-offsetの絶対測定など,カーコム分野の王道的な内容であった.興味深かったのは,モードクロッシングによるスペクトルの崩れについてである.例えば,TEの1次モードのみを考慮した場合に,理想的なソリトンが得られたとしても,どこかの縦モードが,TEの2次モードとクロッシングしてしまった場合は,スペクトルが崩れる.従って,出来るだけモードクロッシングを避けるように設計したい.その一方で,分散設計のためには,導波路幅を太くするなど,シングルモード条件に固執するわけにもいかないため,モードクロッシングはある程度は仕方ないというのが認識である.試験的に,導波路の一部を細くしてシングルモード条件を作りだすような研究をしているらしい.理論的にはテーパファイバと同じで,シングルモードのみが存在するようになるのだろう.テーパファイバと同じような現象が起こるのだとすれば,広いエヴァネッセント光を利用した原子トラップや,そこからの単一光子発生などテーパファイバを用いて研究されている事柄に繋がるのかもしれない.

FW6C.5 Octave-spanning microcavity Kerr frequency combs with harmonic dispersive-wave emission on a silicon chip *NIST Diddams, Papp, Srinivasan等
聴講できなかったポストデッドラインの発表.SiNリングを用いて,1~2 µmに拡がるコムを観測したという報告.工夫しているのは,分散波(dispersive-wave)が発生する波長を1 µmと2 µm付近に設計したことである.もう一つの工夫として,導波路と共振器間のカップリングの調整が挙げられる.通常,ポンプ波長のカップリングのみが考慮され,他の波長は無視されがちであるが,そこを曲げ導波路を用いる事で考慮している.実際に1550nmポンプで,1~2 µmに拡がるコムを観測しているが,ソリトン形成には至っていないようである.

4.その他

FM2D.1 Low Power Nonlinear Optics in Nanophotonic Structures *Stanford Vuckovic
ナノフォトニクスであるが,シリコンではなく,GaAs, GaP, SiCなどを中心とした研究の紹介.GaAs nanobeamにおけるχ(2)を利用したDFGに関して.GaAsの結晶面を工夫して作製することで効率よく発生するとのこと.Photon blockade ⇔ Photon induced tunnelingなど単一光子レベルの研究も多い.フォトニック結晶構造を利用したもの等の王道的なナノフォトニクスの研究を紹介する一方で,2015年にNature Photonicsに報告されたような,従来の様式を打ち崩すような研究を対比させて紹介し,聴衆の笑いを誘っていた.しかしながら,今後は最適化アルゴリズムを用いるこのようなデザインが,ナノフォトニクスの中心になっていくのかもしれない.
Inverse design and demonstration of a compact and broadband on-chip wavelength demultiplexer, Alexander Y. Piggott, Jesse Lu, Konstantinos G. Lagoudakis, Jan Petykiewicz, Thomas M. Babinec, and Jelena Vučković, Nature Photonics (2015) (arXiv:1504.00095)

FM2D.5 Ultra-narrowband tunable microwave filter created by stimulated Brillouin scattering *Sydney Eggleton等
Forward Brillouin散乱を用いた研究.この研究に関して興味深いのはデバイスである.シリコンナノワイヤを用いるまでは良いが,基板に接触していると音響波との相互作用であるブリルアン散乱の効率を上げることができない.では,基板からシリコンナノワイヤを分離すれば良いのだが,本研究ではsilica pillar構造を採用している.これによってフォノンのleakageを防ぎ,optical modeとphonon modeの強い相互作用が担保されるようである.しかしながら,フォトニック結晶分野の眼で見れば,エアブリッジ構造という解がすぐに見えてくる.実際にエアブリッジを使うような試みについて紹介されていたような気がするが.同じフォトニクスの分野でも,少し方向性を変えることで,ブレイクスルーが起こせるような気にさせてくれる報告であった.

FTu3E.1 Mid-infrared and THz Quantum Cascade Laser Frequency Combs ETH Faist
Faistによる量子カスケードレーザ(QCL)のチュートリアル.QCLの設計に関しては全く理解できなかったが,中赤外~テラヘルツ領域を狙っていることははっきりしている.QCLから直接コムを発生させる研究は,2013年度に Natureに発表されていたが,その後も少しずつ進んでいるよう.QCL分野とは争わずに,QCLを用いて発展させていくような研究が望ましいと個人的に感じた.そういう意味で,中赤外帯でカーコムを発生させるためにQCLを光源として用いるのは正統派であると思われた.

FW3E.6 Silicon NanoDimers for Magnetic and Electric Field Hotspots *Data Storage Institute, シンガポール
金などをナノギャップで接近させると,プラズモンによりその隙間に強力な電界が生じることはよく知られている.電界に関しての研究は広く進められている一方で,磁界に関する研究は少ない.本研究は,誘電体(シリコン)をナノギャップで接近させた時に生じる電界と磁界を関しても解析,実験している.励起する光の偏光によって,electric dipoleとmagnetic dipoleのどちらが励起されるかが変化する.