CLEO 2016 藤井 瞬

Research

CLEO 2016 帰国報告

修士1年 藤井 瞬

1.学会について

今年のCLEO(Conference on Lasers and Electro-Optics)は 6月4日~10日にかけて例年通りSan Jose, USAで行われた.学会が行われたSan Jose Convention Centerは駅からのアクセスもよく,非常に清潔な場所であった.3日の夜に最寄り駅に着くやいなや奇声をあげる集団やクラクションをリズムよく鳴らしまくる車がいたためとても驚いたが,あとで調べると地元のホッケーチームであるSan Jose Sharksがプレーオフに進出し,勝利を収めたおかげでファンのテンションが最高潮になっていたためであった.周辺のお店には”This is sharks territory”というプレートが掲げられており,地元のチームを応援するときには熱が入るようである.今回は駅から徒歩7分程度のArena Hotelに宿泊し,学会会場までは徒歩で移動した.サンノゼ開催の昨年のFiOで騒動に巻き込まれたというVTAには結局乗ることもなく,何事もトラブルなく終わると思われたが,帰りの電車に乗ろうと急いでいたところで大柄な黒人に絡まれた.無視しようとしたが追いかけて来て握手を求められた後に“どこからきたの?何しにきた?何日いたのか?”などと色々聞かれたが,最後には”Good stay”とかなんとかいって解放してくれたため事なきを得た.学会中は加藤さん,鈴木さんと行動を共にしており,Loncar研やWeiner研の人たちも多くきていたため,久々の再開となった先輩たちの談笑に交じったりもできた. Lipson, Gaeta, Vahala, Kippenberg, Weiner, Chembo, Erkintaloなどのそうそうたる顔ぶれがそのへんにいることに最初は軽く衝撃を受けた.また,国内の学会とは違ってMicrocombのセッションも多数あり,毎日飽きることなく聴講できたのは非常によかったが,当然すべて英語で発表されるため集中していないと多くを聞き逃すことになってしまう.心配していた食事面も特に問題なかった.

2.自身の発表について

今回はMicroresonator combs Iというマイクロコム関連のセッションで発表を行った.内容は卒論,応物発表と同じくCW-CCWコムをメインとしたものであった.セッションのトップバッターということもあり,比較的スムーズに入れたように思えたが,意外に緊張しており,序盤はいくつかフレーズを飛ばしてしまった.途中からは慣れてきて12分間の発表はあっという間だったが,聴衆の方を向いて話す余裕はなかった.質問は3つで,パワー比はどの程度か.散乱点は意図的に付着したものなのか,結合がCW側に影響を及ぼすのかという内容だった.質問の意図はわかるが声をはっきりと聞き取れた訳でもなく,英語での質疑応答の難しさを実感した.それと最前列にいたChemboが質問をしてきたことは焦りを加速させる要因となった.次の機会では冷静に返答し,リベンジしたい.

3.聴講した発表内容

[STu3Q.5]
“Demonstration of a Soliton Frequency Comb in a High-Q Silica Microresonator” Gr. Vahala
すでにOpticaで論文発表されている研究.Wedge-silica diskを用いて22GHz程度のrepetition rateをもつsolitonの安定化を達成した.手法としてはdetuningのservo lockingをすることで19hを超えても安定化していた.Silicon-nitrideが主流となったこの分野でVahala groupはsilica wedgeを使ったインパクトある研究を送り出し続けている.今回はその他にもsilica wedgeにnitride waveguideをintegratedしたultra-high Qな共振器をPost deadlineで発表しており[JTh4B.7],今後この共振器を用いたFWMの報告がされると予想される.カップリングを固定できることは大きな強みであり,それをsilicaで達成したことは脅威になる予感がした.

[STu4Q.6]
“Coupling Ideality of Integrated Silicon Nitride
Microresonators for Nonlinear Photonics” Gr. Kippenberg
Silicon nitride ring共振器のcouplingについて検討した研究.直線型の導波路と結合させるデザインが常識であったが,リングに沿うような形状(pulley coupler)をデザインすることで,より位相整合条件がとりやすくなる.具体的には従来存在したような高次モードへのカップリングの低減,クリティカルカップリング時のQ値向上が期待できる.今まで考えられていない着眼点であり,実験でその効果を実証していたが,実際にこれが主流になるかは微妙だと感じた.非線形現象における位相整合は極めて重要なファクターであるため,これらについて理解を得ることには一定の価値はあるのだろう.特にデザインの段階で結合が決定されるSiN共振器の場合はこのような知見が得られることは分野全体の共通認識になりうるような研究である.

[STu1H.4]
“Modelocked Mid-Infrared Frequency Combs in a Silicon Microresonator” Gr. Gaeta
2.4-3.2μmという中赤外領域でモードロックしたカーコム発生のfirst-demonstrationを行った.PIN構造を有したSilica microring共振器を用いており,PIN-junctionは3PA(3-photon absorption)によって生成されるfree-carrierをコントロールするために用いている.レーザのデチューニングによりsoliton stepを確認しており,中赤外帯でモードロックされていることを確認した.また,逆バイアスの印可電圧を変えることで実効的にdetuningを変化させることができるため,その方法を用いることでもモードロックを達成している.今回のPost deadlineで同じ発表者が上記のSilicon microresonatorを用いた”中赤外帯のDual comb”を発表していた.中赤外帯は大気分析をはじめとした化学,生体分析の分光に都合がいいため,デュアルコム分光へ向かうのは必然ともいえる.今年のCLEOではこのデュアルコムに関する発表が他にも多数あり,注目を集めていることがわかる.

[SW1E.4]
“Generation of an optical frequency comb in the green with silicon nitride microresonators” Gr. Bowers
UCSBのJ. Bowers Gr.がSiN共振器で3次高調波発生&3次和周波発生を介して可視光域(緑)でコムを発生させたという報告.BowersのGr.はsilicon photonicsを中心に行っているようだが連名にKippenbergが入っていることから,今後microcombに参入してくる可能性もある.発表としてはIR領域で広げたコムの高調波を可視光帯で観測したというシンプルなものであった.今までSiN共振器を使った高調波の研究はLipson Gr.の2次高調波発生を介した780 nm帯のvisible combが報告される一方で,なぜか3次高調波を介した研究はなかったので,不思議に思っていた.TEよりもTMモードを使う方がよいという報告をしていたが,その理由ははっきりとはしなかった.
[SF2O.4]
“On-Chip UV Dispersive Wave Generation” Gr. Vahala
分散をうまく制御したSilica waveguideを作製し,Dispersive waveを用いたUV lightを確認したという報告.THGのような高調波を用いるわけではなく, SCG(Supercontinuum generation)を介していることが大きな特徴である.分散波を使って短波長へのアクセスというアイデアはそのうち出るだろうと思っていたが,Vahalaのグループが注目しているのは意外だった.Waveguideでdemonstrationが行われたので,共振器にいくのも時間の問題かもしれない.Vahala Gr.は分散の制御した構造を作ることができるため,Silicaをプラットフォームとした多くのアイデアをもっていることがわかる.

藤井 瞬
藤井瞬 発表の様子