シリカ微小共振器における光カーコムと誘導ラマン散乱の利得競合

Research

シリカ微小共振器における光カーコムと誘導ラマン散乱の利得競合

四光波混合と誘導ラマン散乱の振る舞いに関する新たな知見

四光波混合や誘導ラマン散乱は第三次非線形光学効果の一種であり,単位体積あたりの光密度が高まる微小光共振器においてはしばしば観察される現象です.これらはエネルギー保存則を満たす条件下で「新たな波長の光を生成する過程」と考えることもできます.誘導ラマン散乱はポンプ光と物質固有の分子振動との共鳴(散乱)によって新たな波長の光が発生する現象です.今回用いた共振器の材料であるシリカガラスは非常に広い波長帯域でラマン利得をもつことが知られており,それは様々な波長の光が発生する可能性があることを意味しています.その一方で四光波混合はある単一波長のポンプ光を入力したとき波長の異なる新たな光子が2つ生成される現象です.このように発生される光は単色性・指向性がよいためチップスケールで動作する光周波数コム光源としての応用も期待されています.

本研究ではシリカ微小光共振器で発生する四光波混合と誘導ラマン散乱間の利得競合を理論的に予測し,実験的に観測することに成功しました.先程述べたように四光波混合と誘導ラマン散乱は全く異なる物理現象ですが,どちらも同じポンプ光から発生するため,どちらが優先的,支配的に発生するのかという疑問が残されていました.解決の鍵になったのは「利得(ゲイン)」の解析です.四光波混合と誘導ラマン散乱の発生のしやすさ(=利得)を理論的な解析を用いて比較することで,四光波混合と誘導ラマン散乱が選択的に得ることのできる条件があることを発見しました.
以下に示す図はレーザの波長を微調整することで1-FSR(ポンプの1つ隣のモード),誘導ラマン散乱,2-FSR(ポンプの2つ隣のモード)の動的な状態変化を観測した際の実験結果です.シミュレーション結果ともよく一致しており,これまで観測されていたが,深く理解されていなかったメカニズムを明らかにしたということができます.これらの成果は光カーコムやラマンレーザの将来的な応用へ向けた重要な知見となることが期待されます.

図1:(a) 四光波混合が1-FSRで発生した状態.(ステージ1)(b) 1-FSRコムと誘導ラマン散乱の競合状態.(ステージ2)
(c) 誘導ラマン散乱が支配的な状態.(ステージ3)(d) 四光波混合が2-FSRで発生した状態.(ステージ4)

本成果の一部は日本学術振興会科研費(JP15H05429)の援助を受けました.
本研究は J. Opt. Soc. Amer. B, Vol. 35, No. 1, pp. 100-106 (2018)に掲載されています.