CLEO 2023 川西 悟基

Research

CLEO 2023 参加報告

7th May - 12th May, Convention Center, San Jose, USA

特任教授 川西 悟基

1.概要

  Conference on Lasers and Electro-optics (CLEO)国際会議はアメリカ物理学会(APS)、IEEE フォトニクスソサイエティおよび米国光学会(Optica)の主催で3年ぶりに対面形式で開催された。

 会議初日の5月7日には光集積回路について設計およびシミュレーションのトレーニングを行うスペシャルイベントが開催された。また、5月7日から5月9日にかけてレーザおよび電気光学の分野について解説するショートコース(コース数19)が開催された。また、5月9日から5月11日にかけては展示会も開設された。
 テクニカルセッションは18のセッションに別れて午前8時から午後6時まで講演が行われ、最終日前日の5月11日午後7時から9時まで最新の研究成果がポストデッドラインセッション(セッション数3)で報告された。
 以下、会議の内容のうち、報告者の研究内容に関連する講演を主体に報告する。

2.プレナリートーク

JTu1A.1 Extreme Light Control With Optical Metasurfaces (Andrea Alu, CUNY Advanced Science
Research Center, United States)

 誘電体などの物質の表面に特定の構造を形成すると光学特性に新たな性質を発生させることが可能となる。ここではメタ表面について、原理や応用が紹介された。

JTu1A.2 The Urgent Roles for Optics and Photonics in Global Health and Climate Change (Thomas Baer, Stanford University, United States)

 光学技術を用いた地球環境変動と健康への取り組みが紹介された。1988 年に初めてレーザを使った氷河の厚さの測定を行って以来、地球環境の変動と健康(ガンの診断だったか?)への応用例が紹介された。
特に LIDAR 技術が有効であるとのことであった。

JTu1A.3 Ultrafast Lasers to DEI: a 40-Year Journey (Ursula Keller, ETH Zurich, Switzerland)

 スイスの女性研究者が女性の立場から研究分野での男女の待遇の格差について、かなり批判的に講演した。スイスにも処遇に男女の格差があることを初めて知った。

JW1A.1 Thermodynamics and Light (Shanhui Fan, Stanford University, United States)

 熱力学の立場から、光との関わりについて紹介された。太陽電池による24時間発電などの例が紹介された。

JW1A.2 Scaling Photonic Quantum Systems (Christine Silberhorn, Paderborn University, Germany)

 集積光学と時間-スペクトルエンジニアリングをベースにした将来の多次元光量子システムの実験的検討が紹介された。

JW1A.3 Democratizing Nonlinear Photonics (Alexander Gaeta, Columbia University, United States)

  チップベースの光学によってミリワットレベルのパワーで非線形を発生させる技術のここ20年の進歩が紹介された。カー周波数コムが紹介されていた。

3. 報告者の発表

 報告者は会議3日目の5月9日の午後4時からのセッションで報告した(Stu4G.2)。会場は定員約150人の部屋で、午後の最後のセッションにもかかわらず40人くらいの人が聴講に来てくれた。
 今回の会議では、MgF2 マイクロ共振器で発生させたコムのスペクトルを矢上-新川崎間に敷設されている往復9kmの商用ファイバを波長多重伝送させたのち、スペクトルの一本をフィルタで切り出して符号
誤り率特性を測定した字実験結果を中心に報告した。質疑応答は以下の通り。
Q1:予備実験ではエラーフリーの伝送をするためには信号速度をFSRの以下にする必要があるとして
いたが、フィールド伝送ではFSRと同じ 10 Gbit/s で伝送できたのはなぜか?
A1:フィールド伝送ではFSR20 GHz の共振器を使ったため。(これは予備実験とフィールド実験の条
件を統一すべきであった)。
(以下はセッション終了後に受けた質問)
Q2:MgF2 共振器とテーパファイバはどうやって近づけているか?
A2: 一度接触させてから離すなどいろいろ工夫している
Q3:コムの持続時間は?
A3: 風や振動を防ぐなどの工夫をして数時間程度安定させた。(これは素晴らしいと言われた)
Q4: 変調は全コムスペクトル一斉にか?
A4: 今回の実験ではその通り。

4.注目した発表

伝送関係

報告者が発表したセッション(Stu4G)はショートリーチの伝送関係の講演が行われた。

STU4G.1(招待講演) Advanced Modulation Formats for Short-Reach Systems (Xi Chen, Nokia Bell Labs, United States)

短距離伝送用の信号フォーマットとして、シングルサイドバンド変調、ストークスレシーバや単一キャリアインターリーブ変調法などを紹介した。

STU4G.3 Reservoir Computing-Based Multi-Symbol Equalization for PAM 4 Short-Reach Transmission
(Yevhenii Osadchuk, Technical University of Denmark, Denmark)

デンマーク工科大学からはスペクトルスライスと reservoir computing を用いた 32 GBd PAM4 の伝送実験が報告された。シンボル数を17にすることで出力の複雑さを低減できることが示された。

STU4G.4 Demonstration of 100-km Long O-Band WDM Amplified Coherent Transmission (Natsupa Taengnoi, Optoelectronics Research Centre, United Kingdom)

 英サザンプトン大学から O バンド帯で偏波多重4値 PSK の WDM100 km 伝送実験が報告された。光増幅器にはビスマスドープファイバ増幅器を使用した。FEC リミット以下の符号誤り率を達成したとしている。

STU4G.5 100-km Polarization-Orthogonal Self-Homodyne Coherent WDM Transmission Using Nonlinearity Suppressed SOA (Weihao Li, Huazhong Univ of Science and Technology, China)

 中国 Huazhong 大のグループは偏波依存利得が小さい半導体光増幅器を用いて 800 Gbit/s, 4-ch.偏波直交自己ホモダイン コヒーレント WDM 伝送実験を報告した。ただし受信側のローカルオシレータは送信側から供給している。

SM2I.1 Gain Flattened Wideband YDFA for 1 μm Data Transmission (Yongmin Jung, University of Southampton, United Kingdom)

 英サザンプトン大のグループが利得フラット YDFAを報告した。2台の YDFA の間に利得平坦化フィルタを用いて利得変動を 1 dB 以下に抑えてある。講演では 2.2 km ホローコアファイバによる波長 1μm伝送実験についても報告していた。

マイクロコム関係

 マイクロコム関係は5月11日に2つセッションが組まれた(STh1J, STh3J)。主な報告を紹介する。

STh1J.2 Low Stress Bilayer LPCVD-PECVD SiN Waveguides for Kerr Frequency Comb Generation (Karl McNulty, Columbia University, United States)

 米コロンビア大のグループは SiN の2層の CVD 層からなるマイクロリングを作成してコム発生を報告した。作成した共振器を 1548 nm、125 mW で励起し、波長帯域 300 nm のコムの発生を報告した。

STh3J.3 Optical Data Transmission Using Inverse-Designed Silicon Multimode Photonic Circuits and Spectrally Flattened Microcombs (Kiyoul Yang, Stanford University, United States)

 米スタンフォード大らのグループは Inverse-design と呼ばれる手法で作製したモード多重デバイスとマイクロ共振器を組合わせてコムを発生させて WDM 伝送実験を報告した。このデバイスと Si3N4マイクロ共振器で発生したコムを組合わせて総伝送容量 1.76 Tbit/s、Ta2O5マイクロ共振器で発生したコムを組合わせて総伝送容量 1.12 Tbit/s を達成している。

ポスターセッション
 ポスターセッションは 5 月9日から5月11日の昼に開催され、5月9日には160件、5月10日には153件、そして5月 11 日には142件のポスター発表がなされた。
 ポスター発表では伝送関係の内容は下記のワイヤレスシステム(JTh2A)程度であった。

JTh2A.101 5G NR Fiber-Wireless Systems With Dual-Polarization Scheme and Single-Carrier Optical
Modulation (Hsu-Hung Huang, National Taipei University of Technology, Taiwan)

本発表では5G 時代の新しいファイバワイヤレスシステムの目標を達成するような、デュアル偏波でシングルキャリア光変調を行った結果が示された。

ポストデッドラインセッション
 ポストデッドラインセッションは5月11日の午後7時から開催され、3つの会場に分かれて計23件の発表があった。この発表の中で、3番目のセッション(ポストデッドラインIII)では伝送関連の論文が発表されたので紹介する。

STh5C.7 First Demonstration of a Cryogenic Silicon Organic Hybrid (SOH) Mach-Zehnder Modulator With a Sub-1V π-Voltage (Adrian Schwarzenberger, Karlsruhe Institute of Technology (KIT), Germany)

 独 KIT のグループはシリコンと有機物のハイブリッド構成のマッハツエンダ変調器で低駆動電圧の変調器を報告した。変調器の断面図をに示す。用いられた有機物は Perkinamine をベースとしている。動作は極低温(11K)での動作であるが、波長 1532 nm における半波長電圧は 0.9V とこれまでの報告では一番低いと主張している。この変調器を用いて 70 GBd の PAM4 信号の室内送受信実験を報告している。

STh5C.8 Optical Arbitrary Waveform Generation and Measurement (OAWG/OAWM) Enabling 320 GBd 32QAM Transmission (Huanfa Peng, KIT, Germany)

 上記発表に引き続いて独 KIT のグループは、光コムを用いた任意光波形発生(OAWG)と任意光波形計測(OAWM)について報告した。 320 GBd の 16QAM 信号を発生させて 87 km ファイバを伝送し、OAWM で受信して符号誤り率の測定を行い、FEC リミット以下の特性を実現した。

展示会
 今回の展示会はプレナリーセッションが行われた会場の後ろ側半分を会場として開催され、以前参加したときよりも展示社の数は少なかった。その中で、Aerodiode 社(www.aerodiode.com)の展示では、520 nm-1650 nm の LD、1310 nm と 1550 nm のスーパールミネッセントダイオード、SOA の変調器など各種のレーザ関連機器をラインアップしていた。

5.まとめと今後の展望

 6年ぶりの CLEO であったが、3年ぶりの対面形式の講演で、参加している人たちも喜んでいるように見受けられた。今後も対面形式での会議が継続することを願いたい。
 なお、次回の CLEO2024 は5月5日から5月10日までノースカロライナ州シャーロットで開催予定である。