CLEO 2023 今村 陸

Research

CLEOPR 2023 参加報告

5th May - 10th May, Convention Center, San Jose, USA

後期博士課程3年 今村陸

1.概要

2023年5月5日~10日にアメリカ合衆国サンノゼにて開催されたCLEO (Conference on
Laser and Electro-Optics) へ参加および発表を行った.CLEOでは光工学・光通信・光
エレクトロニクス・光エネルギー・光医療など,光に関する幅広い分野の研究発表が
行われる.また,同時に開催される多くの企業による展示会も特徴の一つである.

2.報告者の発表について

タイトル: Passive Mode-locking Without a Saturable Absorber Using a Coupled Microresonator

著者: R. Imamura 1 , S. Fujii 2 , A. Nakashima 1 , and T. Tanabe 1
所属: 1. Department of Electronics and Electrical Engineering, Faculty of Science
and Technology, Keio University, 2. Department of Physics, Faculty of
Science and Technology, Keio University.

講演番号: JW2A.95

超短パルスを得ることのできるモード同期には,通常可飽和吸収体やアクティブな
変調が必要になる.本研究では全く新たなモード同期手法として,微小光共振器結合
系を用いることで,可飽和吸収体を必要としないモード同期手法の提案を行った.
セッションの最初から最後まで説明や質疑を続けるほど,非常に多くの聴講者に恵ま
れた発表となった.質疑に関しては,やはりマイクロコムの研究者からの質問が多く
,実際の実験に向けた取り組みや,共振器のプラットフォーム,分散など今後の参考
になるディスカッションができたように思う.

3.聴講した発表

タイトル: CMOS-compatible high energy passively Q-switched laser
著者: N. Singh, et. al.
所属: Center for Free-Electron Laser Science CFEL, Deutsches Elektronen-

Synchrotron DESY, Germany

講演番号: STu4P.2

Franz X Kärtnerのグループによる受動Qスイッチレーザの発表.ファウンダリがSiNの導波路を作製し,利得部分 (Tmイオン添加Al 2 O 3 ) を自らでスパッタしたデバイスを使用している.また可飽和吸収体として非線形干渉を用いた導波路型のループミラーの構造を用いている.これにより1880 nm帯でのQスイッチ動作を実現したという報告であった.同研究室によるポスター発表が,私のポスターの向かいで行われていたため比較的詳しい内容まで質問することができた.
 この研究グループは2010年頃,オンチップの受動モード同期レーザの開発を行っていたものの,導波路構造における利得不足により繰り返し周波数向上が困難である,という結論がなされていた.そのため数年の間,新たな報告はなかったように思われる.しかしながら質の高いSiN導波路を作製できるファウンダリ (特にLigentec) が台頭してきたことで,デバイスの問題が解決されたとのことであった.このように,比較的容易にアイデアを実現できる状況になりつつあり,マイクロコムだけでなく集積フ
ォトニクス全般において,この分野への新規参入/再参入が起こりつつあることが非常に興味深かった.

タイトル: A Hertz-Linewidth Erbium Laser Based on Photonic Integrated Circuits
著者: Y. Liu, et. al.
所属: EPFL
講演番号: Stu4P.1

EPFLのT. J. Kippenbergによるエルビウム添加SiN導波路の続報の一つ.昨年Science誌に掲載された論文ではオンチップでの増幅器として使用していたものを,レーザ媒質として使用し,通信波長帯で50 Hzという狭線幅レーザを開発したという報告であった (1480 nm励起).ポイントは2つのリング共振器によってVernier filterを形成している点で,これにより狭線幅化と1550 nm ~ 1590 nmの範囲で波長掃引を可能としている.使用されているエルビウム添加SiN導波路の添加密度 (1.5×10 20  /cm 3 ) とその増幅率 (30 dBm) は一般的なEDFAと遜色ないレベルであることから,まさにエルビウム添加ファイバを集積できるようになったと考えられる.

4.最後に

 COVID-19以来の国外での国際学会であったため,食事や周囲から聞こえる言葉,また道路の表示に至るまで,すべてが新鮮な心持ちで参加することができた.学会に参加して最も印象深かったのは,やはり集積フォトニクスのセッションの多さと,それを象徴するかのようにSiNファウンダリであるLigentecが学会スポンサーとして大々的に強調されていた点であった.聴講したセッションでも言及した通り,集積フォトニクスの分野において,デバイス作製の敷居が高い,と言われてきたことはもはや過去になりつつあり,新規参入もしくは再参入がこれから増加するであろうことを肌で感じる機会となった.
 会場があるサンノゼはシリコンバレーが近く,会場や宿の周りにはGoogleやAppleをはじめとする大企業の建物ばかりで,異世界に来たような心持ちであった.またアメリカらしい大盛りの食事も総じて口に合い,涼しく乾燥した気候も相まって,快適な学外活動となった.